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第23話 決意 ⑤

 部屋から見ていた園庭はどこまでも遠く、決して手が届かないと思っていたのに、今は少し手を伸ばせば生きている草花に触れることができる。  頬を撫でる風は僕が太陽の下にいることを教えてくれて、肌にあたる陽の光は自然の暖かさを感じさせてくれる。  鳥の鳴き声、花と花の間を飛び回る蝶やはち。  宮殿で閉じこもる前は当たり前にあって気づかなかった。  目には映っていても、ちゃんと意識して見てこなかった大切なもの。  もしかすると僕は、他にも目には映っていても、ちゃんと意識して見ていないことがあるのかもしれない。気付いていないことがあるかもしれない。  僕はもっといろんなところに目を向けるべきかもしれない。  そんなことを考えながら、広い園庭の奥に入っていくと、 「この先にユベール様に見ていただきたい場所があります」  クロエが指差したツタのアーチを潜りる。  クロエに案内されるがままついて行った先には、白いガゼボに鮮やかな赤い花びらをつけた花が(つた)を張り巡らせていて、中に入るとガーデンテーブルと一脚のガーデンチェアーが用意されている。  そしてその傍に侍女が2人、待機していた。 「ユベール様、早速お茶にしましょ」  すでにアフタヌーンティーセットが用意されていて、クロエは僕をガーデンチェアーに座らせる。 「ちょっと待ってくださいね」  甘い香りがするハーブティーを淹れる。  お茶を淹れるのが上手だった姉様のハーブティーが、大好きだった。  ハーブの甘酸っぱい香りとともに、懐かしい記憶が蘇る。 「ケーキもたくさん用意しました。今流行りのこのフルーツケーキはいかがですか?とても美味しいと評判ですよ」  クロエはケーキタワーから、今流行りだという生クリームと果物が乗った一口サイズのケーキを皿に乗せ、僕の目の前のテーブルにハーブティーと一緒に並べて置いてくれた。

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