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第41話 初夜 ①

 翌日から僕とカイトくん達は読み書き、計算などを勉強したりした。そして毎日夕食後はアレク様を膝枕をしながら、日中の話をするのが日課となっていた。  ある時、僕が勉強を頑張っているカイトくんの話ばかりするので、アレク様が「他の男の話ばかりするな」と拗ねた時は、お腹を抱えて笑ってしまった。  子ども達と触れ合う中、他の使用人達とも話す機会が増え、日を重ねるごとにアレク様や子ども達、後宮内との人たちとの距離の距離が近くなり始めていた。  なのに殿下とは膝枕をしながら今日あった話だけで、肝心なお互いの話はしていない。  「僕は殿下とも仲良くなりたいのに……」  部屋で1人、窓から園庭を見ながら呟いていると、 「その言葉、聞きましたからね!」  いなかったはずのクロエが目を三日月型にし、ニヤリと笑いならがら立っていた。  なんだか嫌な予感しかしない……。  すごくまずい予感しかしない! 「その問題、このクロエが解決して見せましょう!」   クロエは自分の胸を2回叩き、意気揚々と部屋を後にし、またすぐに帰ってきた。 「ユベール様、今夜こそ続きをするときがやってきました!」  クロエは|あの本《・・・》を僕の目の前に差し出す。  あの本……。 ー白い薔薇が赤く染まる時ー  あの官能小説!  ということは……。  恐る恐るクロエの方を見ると。 「そうです。お察しの通り、今日こそ『初夜』のやり直しをするのです!」  やっぱり……。 「やはり殿下と親密になるには、肌と肌との触れ合いが必要です。ユベール様は殿下の愛情を全身で感じられ、愛を深められるのです」  クロエは自分の両指を絡め合わせ、祈るポーズで天井を見上げる。  ああ……完全に想像の世界に飛んでいっている……。 「クロエが僕のことを考えてくれているのは嬉しいけれど、これは陛下のお気持ちも大切で……」  とりあえず、早すぎる展開をどうにか止めようとしたのに、 「なんの問題もございません」  そこに現れたのはヒューゴ様。 「クロエからこの話を聞き、すぐに殿下にお伝えしたところ、殿下は夢見心地でいらっしゃいます。なのでなんの問題もございません。あとはユベール様のご意志だけです」 「僕の……意識?」  もう一度、あの官能小説のページを捲ると、あの挿絵が出てくる。  心臓がドキンと跳ねた。   僕と殿下があんなことするの?  想像しただけで、体がカッと熱くなる。  殿下を膝枕するのとは、話が違う。  だって2人とも裸だよ?  殿下が僕の裸を見るんだよ。  この女の人みたいにふくよかな胸もないし、柔らかい体もない。  こんな貧弱な体見せられないよ……。  無意識に両手で体を隠そうとした。 「ユベール様はお美しいですよ。殿下との関係を踏み出されたいと思われるのならば、一歩踏み出してみませんか?」 「でも……僕、この本みたいなことできない……」  僕は何も知らない。  知らなすぎる。  それが怖いしはずかしい。 「殿下に身を預けるだけです。殿下の愛を全身で受け止めるだけです。ユベール様は殿下に愛されるべき方なんです」  殿下に身を預けるってなに?  愛を全身で受け止めるってなに?  僕が殿下に愛される存在なの?  殿下との距離を縮めたい。  一歩を踏み出したい。 「殿下は僕と一歩踏み出すことを、望まれていますか?」  僕がヒューゴ様に訊くと、 「心から」  真剣な表情でヒューゴ様が言った。  殿下は僕と一歩踏み出すことを願っている。  だったら僕も……。 「僕も一歩、踏み出したいです」  覚悟を決めた。

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