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第42話 初夜 ②

早めの夕食をとり、念入りに用意をする。  薔薇の花びらが浮いた浴槽に入り、薔薇の香りがする石鹸で全身をきれいに清め、肌を滑らかにするクリームを全身に塗る。  金色の髪は光り輝く絹糸のようになるまで(くし)でとかれ、その髪を緩やかに束ねると後頭部でとめ、結い目をかすみ草で飾られた。  今まで見た中で一番綺麗で、自分の髪なのに見とれてしまう。  最後にほんのりと香る薔薇の香水の香りをふりかけてもらうと、自分が自分出なくなったみたいだ。  パジャマは先日殿下から贈られたものではなく、生地は淡い水色に染められたシルクとオーガンジー。デザインは胸元ギリギリまで開いているオフショルダーに、足元までストンと真っ直ぐに落ちたスカートライン。 「ユベール様…お綺麗です」  僕を手入れしてくれた侍女とクロエが、うっとりしたように呟く。 「本当、僕じゃないみたい……」  侍女に丁寧に手入れをされ、鏡に映った別人のような自分の姿に見惚れてしまい、人はここまで変われるのかと驚いた。 「こんなに綺麗にしてくれて、ありがとう」  照れながら微笑むと、部屋にいた全ての人々が頬を赤らめ見つめ返してくれる。  今の僕は本当に恵まれている。  どんな形でもいいから、お返しがしていきたい。 「皆さんのために僕ができることがあれば、なんでも言ってくださいね」 「ユベール様が元気でいてくださることが、私たちの幸せです」  そうクロエが言ってくれた言葉が嬉しかった。  時計の入りを見ると、もうすぐ殿下が僕の部屋を訪れる時間。  自分が今からどうなっていくのか、二人で過ごす時間全てが試されているようで不安な部分もある。  でもやれることをやるだけ。 「クロエ……、僕、どうすれば、いい?」 「殿下はお優しい方です。きっとユベール様を安心させてくださいますよ」  クロエは僕の手を握ってくれる。 「うん」  そう返事をしたけど不安が消えたわけではない。  だけど覚悟は決めた。 ——トントントン——  部屋のドアがノックされる。 「は……はい」 「俺だ。入るぞ」  使用人たちはドアの入り口近くに並び頭を下げ、僕はドアの前で殿下が来られるのを待った。 「殿下、お越しくださりありがとうございます」  ラフな格好をしたアレキサンドロス様が入ってくると僕は頭を下げた。 「……」  殿下は僕の格好、どう思われているのだろう?  変じゃないだろうか?  不快な気持ちにさせていないだろうか……。  悪いことばかり考えてしまう。  なのに殿下からは反応はない。  やっぱり僕、おかしなことをしてしまったのだろうか……。  不安になりながら顔を上げると、部屋の入口で固まったまま息を呑み、僕を見つめる殿下がいた。 「殿下……?」  僕が一歩前に出ると、殿下がゴクリと生唾を飲む。  また一歩踏み出すと、殿下は瞬きせず僕の目を見つめ、手を伸ばす。

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