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第45話 初夜 ⑤

「美味しいか?」 「はい!とても美味しくて、懐かしい味がします」  幼い頃食べたミルク飴と同じ味が、口いっぱいに広がる。 「とっても懐かしいです。アレク様もお一ついかがですか?」  僕が差し出すと、 「そうだな」  アレク様もミルク飴を一つ食べる。 「ね、懐かしいでしょ?」  なぜそんなことを聞いてしまったのかわからないけれど、一緒にミルク飴を食べていると、なぜかとても懐かしくなって、つい口からそんな言葉が出てしまった。 「え?」  一瞬、アレク様は目を丸くしたが、すぐに、 「本当に懐かしいな」  と優しく微笑んた。  初夜だと言うのに、部屋の中にはミントの爽やかなハーブティーの香りと、僕とアレク様の笑い声。  いつまで経っても僕が思っている初夜らしいことが始まらない。  あれ?おかしいな……。  今日、僕が読んだ小説と、ちょっと違う…。  僕は知識がなさすぎてわからないけど、そういうこと(・・・・・・)は僕の方から言い出すべきものなの?  ベッドの上に2人分のティーカップを置いたまま、アレク様は僕の髪の毛先を右手の指に絡ませ、遊ばせている。 「悩み事か?」 「いえ、悩み事ではないのですが……」 ー初夜は僕から誘うのものなのですか?ー  なんてまるで、そうなることを期待しているようで言えず、頬を赤らめ困ってしまう。 「頬が赤いぞ、恥ずかしいことなのか?」  恥ずかしくて赤くなってしまった僕の頬を、アレク様は手の甲で優しく摩った。  アレク様の手は気持ちいい。  もっとして欲しくてアレク様の手の甲に、頬を擦り寄せる。 「そんなことをされると、我慢ができなくなる……」  アレク様の手がピタッと止まる。  もっと撫でて欲しい。  アレク様を見上げると、ふいっと顔をそむけられ拒否された気がした。 「アレク様は僕のこと嫌いですか?」  もし嫌いだと言われたら、もうアレク様は僕に会いにきてくれなくなるのだろうか?  そんな不安はあったけど、訊かずにはいられなかった。 「そんな!ユベールのことは、だ、だ、だい、す、す……」  アレク様は目を丸くされ、次の瞬間顔を真っ赤にし、どもらせながら目を泳がせる。そして僕に何か伝えようとしてくれている。  なんて可愛いんだろう。もう、ぎゅーってしてあげたくなってしまう。  恐れ多くて出来ないけど……。  でも『だい、す』ってなんだろう?  首を傾げながら、色々考えてみるけれど、何も思いつかない。 「僕はアレク様のこと、もっと知りたいです。もっとお話したいです。それにアレク様にもっと触れてもらいたいです」  僕が偽物の側室だとしても。 「ユベール、それ本当に言っているのか?」 「僕、アレク様にだけは嘘をつきません」  アレク様との約束。  でも約束がなかったとしても、アレク様にだけは嘘はつきたくなかった。  本当の僕を見て欲しかった。

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