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第69話 手作りの昼食 ②

 アレクが会議に行った後すぐ、僕はクロエと朝の支度と朝食を大急ぎで済ませ、昼食作りにとりかかる。  メニューはライ麦パン、野菜たっぷりスープ、牛肉のローストに果物。いつも食べている昼食とは比べ物にならないけど、料理人に手伝ってもらわず僕が一人で作れる精一杯。  アレク、喜んでくれるかな?  誰かのために料理を作ったのは、孤児院の時以来。アレクのことを思いなが作る料理は、本当に楽しい。今日は天気もいいし、部屋じゃなくて園庭で食べよう。 「クロエ、敷物の用意してくれる?」 「はい!」  二人して大急ぎで用意をしていると、 ーバンッー   厨房のドアが勢いよく開けられ、そこに立っていたのは…… 「ユベール、終わったぞ!」  息を切らしながら仁王立ちしているアレクがいた。 「え?午前中の会議が終わったの?」  時計の針を見ると、まだ昼食を食べるには早い時間。 「いや、今日の分の会議は終わった。というか調査に行くまでに決めるべきことは全て決めてきた!」  アレクは清々しいばかりの、してやったり顔。 「本当に?」  にわかに信じられず、アレクの後から息を切らしながら駆けつけたヒューゴ様の方を見る。 「嘘のような話ですが、本当です。こんなに仕事ができるなら、毎日こうして欲しいぐらいです。今までのアレは何だったのか……」  会議が終わったとは喜ばしいことなのに、ヒューゴ様は複雑そう。 「それで、昼食はどんな感じだ?」  野菜をぐつぐつ煮込む鍋を、アレクは覗き込む。 「もうできてて、後は園庭に運ぶだけだから……アレクつまみ食いしない!」  お皿の上に盛り付けられている牛肉のローストに、手を伸ばそうとしていたアレクの手を掴む。 「クロエとヒューゴ様の分もあります」  そう言ってから、 「アレク、すぐに食べられるから、運ぶの手伝って」  使用人の手は借りず、料理をカートに乗せ、敷物、飲み物も四人で運んだ。  僕のお気に入りのガゼボで昼食を食べた。敷物を敷き、その上に料理を置く。決して優雅な食べ方ではないけど、子どもの頃、家族で出かけたピクニックのようで楽しい。  アレクはどの料理も「美味しい、美味しい」と食べてくれ、作りすぎたかと思っていた料理は全て綺麗に無くなった。  食事の後のデザートを食べた後は、アレクは僕の膝の上に寝転がり瞳を閉じる。ヒューゴ様は読書、クロエは摘んできた花で王冠を作って、僕の頭の上に飾ってくれた。ゆっくりとした時間。とても平和で幸せな時間が過ぎていく。 「アレク様、そんなにずっとユベール様に膝枕をしていただいていますと、ユベール様の足が痺れてしまいますよ」 「そうなのか?」  僕の膝の上で瞳を閉じていたアレクが、僕を見上げる。  痺れているか痺れていないかと訊かれたら、少し痺れているけど……。 「まだ大丈夫」  だって僕の膝の上で気持ちよさそうにしているアレクに、退いて欲しいとは言えない。 「ユベール様、アレク様に気を使うことはありませんよ」  ヒューゴ様がそういうと、 「ヒューゴは俺が羨ましいのか?」  にやりとアレクが笑う。 「そういう問題ではありません」 「そうなのか?膝枕してほしいならクロエにしてもらえばいいじゃないか」  アレクがそう言った途端、 「絶対嫌ですよ!」  クロエが断固拒否し、 「こちらこそ、そんなことは願い下げです」  ヒューゴ様も断固拒否。せっかく穏やかだった空気が、一気にピリつく。  この空気、どうしよう。僕が何とかしないと。 「クロエ、そんなに嫌がらなくても……」  チラリとクロエとヒューゴ様の様子を伺うが、二人の間の空気は変わらない。 「ユベール様がそうおっしゃっても、嫌なものは嫌なんです!」 「そこまで言い切らなくても……」 「だって兄様を膝枕するなんて、考えただけでゾッとします」  ……え?  今、クロエが言った『兄様』ってヒューゴ様のこと? 「クロエとヒューゴ様って……」 「兄妹です。あれ?言ってませんでした?」  クロエはきょとんとしているけど、 「そんなこと聞いてない!」  あまりに驚きの真実に、僕の声は大きくなる。 「言ってなかったか?」 「ご存知ありませんでしたか?」  アレクもヒューゴ様もきょとんとしている。 「聞いてない!絶対聞いてない」 「てっきりユベールに話てたと思い込んでいた」  あははと愉快そうにアレクは笑うけど、知らないのが僕だけだなんて、なんだか面白くない。自然と頬を膨らませてしまう。  「俺が大切なユベール専属の侍女を、ただの侍女に任せると思うか?それともクロエ以外の侍女がよかったか?」 「そんな!僕は絶対クロエがいい」 「だろ?俺はユベールとヒューゴとクロエしか信用していない。他のやつは、いつ、どこで、どんな形で裏切るかわからない。だからユベール、もし何かあったら俺かヒューゴかクロエの以外信用するな」  アレクは手を伸ばし、僕の頬を掌で包み込む。 「約束する。俺たちは絶対ユベールを傷つけたりしない」 「うん。僕もアレクやヒューゴ様、クロエを絶対に傷つけないよ」  そう誓った。

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