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第5話-3 *

「でも。早瀬のようにいうやつが出てくる予想は出来ていたんだ。もとよりここは社員寮だしね。俺はここを出た方が良いのでは?」 「僕はこの生活に満足してる。会社にも近くて倉沢と一緒に居れて同じ空間を共有できるだけで充実感が溢れてくる。だからもっと一緒に居たいと思ってる」 「それは俺のほうだぜ。自分以外の誰かが俺の帰りを待っていてくれるってのは嬉しいしほっとする。飯も旨いし。早く帰って来たいと思わせてくれるし。だけどお前は家政夫じゃない」 「言いたいことはわかるよ。僕にとっての倉沢は恋愛対象だ。昔も今も。でも倉沢は違うんだろ?」 「わからないんだ。安住の事は嫌いじゃない。だけど俺は友人は多いが恋愛経験は少ないんだ。告白されて女性と付き合ったことはあるがのめり込むほど人を好きになったことはないんだ」 「それって。僕の事が嫌いじゃないなら好きだと思ってもいいのか?」 「それがお前と同じ感情なのかはわからないぞ」 「まさか。倉沢は初恋がまだなのか?」 「え? 初恋って……そうなのか?」  いきなり安住が俺の手を握ってきた。その手はかすかに震えている。 「もしも。もしも恋愛経験が少ないから今の気持ちがわかってないだけなら。僕にチャンスをくれないか?」 「へ? チャンス?どういう?」 「倉沢は僕に触られて気持ち悪いか?」 「いや。ぜんぜん」 「じゃあ。これは?」  安住が俺を抱き寄せると耳元で囁いてきた。 「好きだ。僕は倉沢の事を想っていつもヌいている」  ぼっと顔が熱くなったのが自分でもわかる。あの夜っていうのは多分酔って記憶が飛んだ夜の事だ。 「僕は手順を間違ったんだ。あんな風に酔ったいきおいでじゃなく。ちゃんと告白するべきだったんだ」  息がかかるほどの至近距離で見つめられて鼓動が早くなる。 「僕は倉沢健吾が好きだ。僕の事が嫌いじゃないならまずはお試しでいい。つきあって欲しい」 「安住。何言ってるんだ。お試しって? お前」 「倉沢はきっと本気で恋愛をしたことがないんだよ。心と身体が相手を求める経験をしてみないか?」 「そんな風になる自分が想像できない」 「想像するんじゃないよ。体験するんだよ。目をつぶってみて」  言われるままに目をつぶるとそのままソファーに倒された。 「っ。あず……」  安住がチュッと軽くキスをすると抱きしめてきた。あの時と同じだ。あの時? あれ? 俺、身体が覚えてるのか? 「嫌なら(こば)んでくれていいから」  そのまま口づけが深くなる。ああ、気持ちが良い。安住との口づけは何でこんなにも気持ちが良いんだろう。

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