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第5話-2

「そのまんまの意味ですよ。倉沢さんの事を狙ってるんじゃないですか?」  早瀬が挑発的に笑う。 「貴様っ……」  安住が早瀬の胸元を掴もうとした。慌てて止めに入る。 「やめろっ!お前ら飲みすぎだ!いいかげんにしろってんだ!」  俺が怒鳴ると二人だけじゃなく周り全員が一斉にこちらを見た。しまった。これからこの部署をまとめて行かなきゃいけないのに。 「よし!今日は一旦お開きだ。この後二次会に行くなり、好きにしろ。ただし飲みすぎて羽目を外しすぎるなよ。それから今日の酒代は会社負担だ。払っとくからな」 「わっ。やったあ!」 「お~。ごちになります!」    俺は会計に席を立ったまま戻らず家路に向かった。まったく、最近アルコール絡みで良いことはない。部署ごと禁酒にしてしまおうか。  部屋にはいるとメールの履歴の多さに辟易する。早瀬と安住からだ。二人とも謝るならなんで勝手に喧嘩腰になるんだ? 「倉沢!帰ってるのか?」  安住が焦った様子で玄関からドタドタと飛び込んできた。 「ぁ。よかった。帰ってきてくれてたんだ」  泣きそうな顔で見つめられてこちらが戸惑う。 「なんだよ。俺が帰ってこないと思ったのか?」 「早瀬のいう事を気にしてここを出て行ってしまうんじゃないかと」 「近いうちにそうしようかと思っている」 「っ! も、もう喧嘩なんてしない。あれはつい。カッとなって」 「安住。それが原因じゃない」 「じゃあ。なんで?」 「お前。上司から室長になれって打診が言ってたんだろう?それなのに俺を気にして辞退したんじゃないのか?俺は今までお前は公私混同はしない奴だと思っていた。俺らは傍に居すぎて慣れすぎてしまったんじゃないのか?もしも、俺に花を持たせたいからという考えでいるなら……」 「違う!そんなはずないじゃないか! 僕はイザというときの判断が遅い。すぐに行動を起こせるお前の方が室長にふさわしいんだ」 「そんなことないぞ。お前ほど機敏なアイディアを出せるやつはいない。俺はいつも指をくわえてみてるしかない。室長はお前の方が向いてるじゃないか!」 「いや、俺はしょせん、机の上でしか戦えないんだ。アイディアを重視しすぎて収益が供わなかったりするだぞ。そんなときいつも倉沢が妥協案はないか探す手配をしてくれるじゃないか!」 「いやそれは違う」 「いやそうなんだって」 「…………ぷっ」 「…………ふっ」 「ふは。なんだか僕らって」 「ああ。恥ずかしいな。互いの褒めあいし合うなんて」 「頼むよ。倉沢。僕をお前の補佐にしてくれよ」 「名目上だけだぞ。俺の中ではお前が室長だ」 「僕の中では倉沢は一番だよ」 「はは。お前はブレないな」

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