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第5話-1 嫌いじゃないなら
プロジェクトも中盤に差し掛かりまずまずの評価がだせた。
「ここから本格的なスタートになる。新プロジェクトはこのまま新設された企画立案部となる。室長は倉沢だ。副室長は安住。この二人を中心にやって行ってくれ」
「ありがとうてざいます!」
その夜はチームごとに分かれての慰労会が設けられた。
「日ごろの皆の頑張りに乾杯~!」
祝杯を挙げたのは営業渉外チームのムードメーカーである|早瀬《はやせ》だった。二十代前半の明るい体育会系で人懐っこい性格だ。弟分みたいな存在なやつで、今日も場を盛り上げるため陽気に騒いでくれている。
「倉沢さん、明日から室長っすね。よろしくお願いしやすよ~」
早瀬が俺の腰に抱きついてきた。学生気分がまだ抜けないんだな?俺が頭をグリグリ撫でてやると満足そうにニカっと笑う。
「おう、まかせとけ」
俺は素直に嬉しかった。自分の功績が認められたとそう思っていたからだ。だが次に言われた上司の言葉に冷や水を浴びせられる。
「本当は安住にやってもらいたかったんだが、あいつがお前を推したんだよ……」
俺にだけ聞こえるように小声で告げると上司は飲みすぎるなよと肩を叩いて店を出て行った。
「よぉ。倉沢んとこはまだ盛り上がってるのか?」
隣の企画部で飲んでいた安住がやってきた。
「ああ。もう帰るのか?」
「そうだな。納期が追われてる仕事が一つ残ってるんだ」
一緒に帰ろうと誘いに来てくれたのだとはわかった。
「あれ?安住さんもう帰っちゃうんですか?せっかくなんだからこっちでも挨拶してってくださいよ~」
早瀬が軽く絡んでくる。安住が苦笑しながら答えていると。
「安住さん、倉沢さんといつまで罰ゲーム続けてるんっすか?そろそろ俺らに倉沢さんを返してくださいよ~」
「なんだその罰ゲームってのは?」
「ほら、資料提出に凡ミスが出たからって無理やり一緒に住まわせられてるってやつですよ。俺さぁ、たまには倉沢さんと飲みに行って仕事の愚痴とか言いたいんっすよね~。でもさ、安住さんが待ってるってこの人先に帰っちまうんですよ」
「そうだったのか。すまないね早瀬くん。だが僕らは罰ゲームで住んでるんじゃないよ。プロジェクトを支えあうリーダー同志。気心を知るために」
「もういいでしょ?だって仲いいじゃないですか。気心知れたでしょ?もういい加減に倉沢さんを離してあげてくださいよ~」
「おい。早瀬っ。お前絡み酒なのかよ」
「今のはどういう意味かな?」
安住の顔が強張る。まずい。互いに目が座ってるぞ。普段と雰囲気が違う。酔っているのか?
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