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第4話-1 癒しの豚汁

「わ、私は、民間団体から依頼を受けてグリーンウォッシュ企業を調べているんだ」  北島が眉間にしわを寄せて睨みつけてくる。  「グリーンウォッシュ」とは環境に配慮したイメージを思わせる「グリーン」とごまかしと言う意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語で、環境に配慮してる様にみせかけて実体はそうではなく消費者に誤解を与えるようなことを指す言葉である。  つまりはブランドイメージを向上させたい理由で嘘の表示や表現をしてるのではないかという疑いだ。 「我が社の商品がそれにあたるとおっしゃるのですか?」 「その可能性はあります」 「面白いですね。じっくり聞かせてもらいましょうか」  俺は北島の肩を抱いて足早に商談ブースへ連れ込んだ。 「ちょっ、きみっ……うぐ」  半ば締め技をかけるように引きずり椅子に座らせる。ちなみに俺は柔道は黒帯だ。特に関節技が得意だ。 「倉さ……室長っ!」  早瀬と安住が慌てて後についてくる。 「さあ遠慮はいりませんよ。北島さん。乗り込んでくるぐらいですから資料の一つや二つご持参されているのでしょう? 早くご提示ください」  本当に当社の商品に疑いがあるならそこを問い詰めるはずだ。 「うっ。いや、今日は各社を回って注意を呼び掛けるだけですので」  やはり目当てはわが社ではなく|安《・》|住《・》か。 「おや。おかしいですね。さきほど貴方はわが社の商品がグリーンウォッシュにあたると言われませんでしたか?」 「いえ。そうではなく、どの企業もそれになりうる可能性はあるという事です」 「では何か参考になる事例などをお聞かせ願いましょうか? 何しろ私共もまだこの業界は手探りなところもありまして、知識として取り入れたいことは山ほどあるのです」 「それは、私に助言を求めるというのなら相談料が発生しますが」  気を取り直したように上から目線で話し始めた。させるか! 「これは失礼しました。顧問になりたいという事でしたか」 「は? それはどういう」 「気を悪くなさらないで下さい。どの業界もこういう関連に巻き込まれやすい。そこを見込んでご自身の名を売りに来られる弁護士さんもいらっしゃるのですよ。難癖をつけて顧問弁護士契約を取り付けるという……」 「なっ! 何をっ!」 「ああ、大丈夫ですよ。よくある事です。別に卑下してるわけではありません。世知がないご時世ですからね。ただ、申し訳ございません。当社はすでに決まった顧問弁護士がおりますのでお帰りくださいますか?」 「失敬な! 私を愚弄する気か! 覚えておけよ!」  北島は憤慨してブースから離れて行った。 「室長。やり過ぎっす。弁護士怒らせてどうすんですか?」  早瀬に言われてそれもそうだったかと思いなおす。 「倉沢……その……」 「安住。仕事が終わったら話がある。今日は一緒に帰宅だ」 「はい。室長。了解しました」 

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