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第3話-3
そんな騒がしい俺たちを遠巻きに眺めてる男がいる。安住がちらっと気にするようなそぶりを見せたので見つけた。俺は気づかないふりで相手から見えない位置に移動する。黒髪で紺のスーツに切れ長の目つきの悪い奴だ。視線の先をたどるとそこには安住と早瀬がやりあっていた。男は射るような眼差しでニヤニヤと笑っている。気持ちが悪い奴め。
休憩も終わりブースに戻ると名刺交換を再開した。一通り一巡したところで先ほどの男が近づいてくるのが見える。思わず身構えると男はそのまま安住の前までやってきた。
「お久しぶりですね」
意味ありげな口調の男に安住の顔が引き攣ったのを俺は見逃さなかった。
「……どこかでお会いしましたでしょうか?」
安住が営業スマイルで答える。
「ふ……そういう事でしたね。失礼。私は弁護士の北島と言います」
男は胸ポケットから名刺を差し出す。
「弁護士?……そんな方がこの会場に何の御用でしょうか?」
「安住さんってお名前でしたか? なかなか名前を教えてくださらなかったが、やっと名前を知ることが出来ました。偶然お見掛けしましてね。これは声をかけねばと」
北島は安住の名札を見てにやりと笑った。この会場ではイベントの参加者には名札が必須となっていた。
「この後お時間いただけますでしょうか?」
「ここには仕事で来ております。プライベートではありません」
「そんな事言ってもよろしいんですか?いろいろと会社の方には聞かれたくないこともあるんではないのでしょうか?」
北島は何故か離れた場所にいる早瀬に目線を映した。
「恋人がいらっしゃるんでしょう?」
「だからどうだって言うんですか?」
「失礼ですが、我が社の社員にどういう理由があって詰め寄ってられるのでしょうか?」
たまらず俺は横から口をだした。この男の安住を見る目は尋常じゃない。それにここは企業ブースだ。どう見ても商談に来たって感じではない。仕事に要らぬ私情を持ち込まれては困る。
「貴方は安住さんの上司の方で?」
「はい。倉沢と言います。弁護士の北島さん」
まっすぐに見つめて名前を呼んでやると一瞬怯んだ表情を見せる。安住が何か言いたそうだったが俺は視線でそれを止めた。
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