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第7話-1 胃痛
倉沢とはあれ以来一緒に寝ていない。だからといって仲が悪いわけでもない。悪いのは節操がなかった僕の下半身だ。
オンオフの切替えが徹底してる倉沢は会社ではいつもどうりだ。それが余計につらい。でも倉沢に会えなくなる方がツライ……胃が痛い。
「安住さん。一階の受付にお客様がいらっしゃってるそうです」
「なんだろ?今日は来客予定はないはずなんだがな」
「では商談になるようでしたらこちらの応接室をお使いくださいね」
佐々木さんがにっこりと笑った。
「いやあ、安住さん。またお会いしましたね」
待っていたのは北島だった。やはり来たか。それも会社に堂々と。あぁ胃がキリキリする。
「僕がゲイであることはすでにカミングアウト済ですが」
「そのことについてはお調べしました」
調べただと?僕の周りを調査したっていうのか?
「今日は貴社がグリーンウォッシュ企業という証拠資料を持参した次第です」
証拠資料だと?どうする?倉沢は今早瀬と出かけているはず。
「今日は上司さん達は外回りらしいですね。私は穏便に事を済ませたいのですが……話だけでも聞いていただけますかね?」
くそ、倉沢たちがいないことを確認した上でやってきたという訳か。
「では応接室へどうぞ」
フロア階の応接室へ入ると北島が腕を掴んできた。
「結婚されたようですね?それも男性と」
「それがどうしたんですか?」
「どうせ身体目当てで若い男を選んだのでしょう?」
「はあ?何を言ってるんですか!」
「知ってますか? 世間って純愛には優しいのですが乱交や不倫には冷たいのですよ」
トントンとドアを叩く音と共に佐々木さんがお茶をもって入ってくるのが見えた。
「ふふ。こんな風にね……」
僕に小声で聞こえるように言うと北島が僕を抱き込んだのだが……。
ばっしゃ~んっ。いきなりの水音に驚く。
「何をするんだ!このスーツがいくらすると思ってんだ!」
どうやらお茶を北島の上着にかけてしまったようだ。僕にはトレイごと投げつけたように見えたが黙っておこう。
「まあまあどうもすみません」
ぞろぞろと女性社員が入ってくる。手にはタオルとおしぼりとドライヤー。あまりにもタイミングがよすぎるのでは?
「ささ。シミになってはいけません。ご安心くださいませ。私、クリーニング店の娘でしてシミ抜きは得意ですのよ」
女子社員の一人がすぐさま北島の上着を脱がせるとシミ抜きをやりだした。
「お、おい。なんなんだいったい」
「お客様、このスーツは某ブランドの春夏の新作スーツですね。とてもよくお似合いになってました」
「まあな。弁護士として恥ずかしくないような身だしなみを心がけているのだ」
「まあっ。弁護士さんでしたか」
僕はポカンとしたまま突っ立っていた。なんだこの状況?
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