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第8話-1 常備菜
安住はまだ何か聞きたそうだったが、まずは仕事優先だ。その代わり帰宅後にすべて話すと約束した。
「佐々木さん。今日は助かったよ」
「いえ、今回は出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした。本来なら私たちは壁なのですが。あの弁護士は公私共に敵になる気がしまして。推しを守るためには……むぎゅ」
いつの間にかまた女性社員が来て佐々木さんの口をふさいでいた。
「彼女は帰国子女のため日本語が少しおかしいんです。ほほほ」
「いや。ありがたかった。確かに北島は我が社にとっても害になる人物だ。早く対応できてよかった。君たちには感謝している。今度何か礼をさせてくれないか?」
「そ、それでしたら。お二人の新居に是非!」
普段おとなしい佐々木さんが身を乗り出してくる。
「ああ。その時は皆を招待するよ」
俺の言葉に彼女たちはぐっと拳を握りしめた。ガッツポーズか?何故なんだ?よくわからないが喜んでくれてるからいいか。
◇◆◇
帰宅し、ほっとしたのかソファーでうたた寝をしてしまっていた。胃薬を飲んだせいか胃の痛みもなくなっている。きっとあれは精神的なものだったのだろう。僕ってこんなに弱かったんだな。
「あれ? ひざ掛けがかけてある」
倉沢が帰ってきてるのだろうか? 台所からカチャカチャと音が聞こえる。何か作ってるのか?
「起きたのか?」
奥から倉沢の声が聞こえる。
「うん。ごめん、気づかなくって。おかえり」
「ただいま」
近づくとテーブルの上には食事の用意がしてあった。
「これって。健吾が作ってくれたのか?」
「たまにはと思ってな。ちょっと失敗したが、まぁ食える」
真ん中に置いてある焦げた目玉焼きに目がいく。料理なんてしたことがないって言っていたのに。僕の為に作ってくれたんだ。嬉しい。こんな不意打ちはズルいと思ってしまう。
「とりあえず座って食おうぜ。今日の話もしたいからな」
「食べるのがもったいないよ」
「なんだ。大げさだな」
「まずは乾杯しよう」
倉沢が冷蔵庫から冷えた缶ビールを二本持ってきた。
「「おつかれさま」」
「その胡瓜食べてみてくれないか?」
倉沢がそわそわしながら目の前の小皿を指さした。
「うん。うまい。居酒屋に出てきそうな味だ」
「だろ?ビールに合うと思ってな。やみつき胡瓜って言うんだ」
倉沢がニコニコしながら次々説明してくれる。
「これが大根ナムル。こっちがキャベツと塩昆布。ピーマンとちくわのかつおあえ。後はトマト」
まさに居酒屋メニュー。いつの間に作れるようになったんだろう?
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