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第9話-1 満たされるのは

 久しぶりにアルコールを飲んだせいかいつもより大胆な気持ちになった。普段は羞恥心でなかなか自分から誘うことが出来ない。でも今夜は安住が欲しい。 「明日はゆっくり出来そうなんだ」 「そうだね。僕のところもリーダー選出が終わったよ。今まで休日も仕事だったけど、彼らに仕事を引き継いだら少しはプライベートな時間もとれるかも」 「じゃあ今夜は夜更かししないか?」 「それって……」  安住が俺が言わんとすることをやっと察したようだ。 「健吾。いいのか。もう怒ってないのか?」 「怒ってなどいない。妬いてただけだ」 「嫉妬してくれてたのか?」  安住が嬉しそうな顔をする。 「今日からまた一緒に寝てくれる?」 「ああ。お前の隣は俺の場所だ。俺の隣もお前の場所だ」 「……健吾」 「ベットに行こう」 「1人寝はやっぱり寂しいんだよ。夜中に目覚めると無意識にお前を探してしまうんだ」  俺の言葉にこれからは絶対一緒に寝ると安住が抱きついてきた。 「ごめん。ごめんよ。僕が悪かった。健吾はノンケだったのに」 「馬鹿やろ。何度言わせるんだ。俺は男が好きなんじゃないって。そういう意味ならお前以外はノンケだっていえば理解できるか?好きになった相手が男だっただけだ」 「健吾。僕だけ?……早瀬は?」 「はあ?あいつは俺が育ててる後輩だ。筋が良いから一人前に育ててやりたいんだ。育て終わったらこき使うつもりさ」 「健吾は良い先輩だな。僕は嫉妬深いだけかも」 「何言ってんだ。それは俺の方だぜ。今回のことで自分の嫉妬深さを思い知った。北島は今、警察の留置場の中だ」 「え?逮捕されたって事?」 「そうだ。俺がチクったんだ。お前に引かれるかと思って言わなかったがうちに脅しに来ただけでなく、あいつはいろいろと余罪があったようでな。全部調べ上げてちょっと細工をした」 「細工って危ないことしてないよね?」 「俺自身は動いてないさ。同じように脅されて倒産したところに匿名で資料をバラまいた。あとはそいつらが北島ともめたのさ。いや。正直に言うと、もめるようにしてタイミングを見て警察を呼んだ。弁護士資格はもうはく奪されたも同然のはずだ。俺はさ、営業たたき上げだから、相手の弱点を見極めて攻め入る事もするんだ。俺はお前が夢見るような純情な天使とかじゃないのさ」 「健吾……」 「あいつが安住の。和真の前にうろつくのが許せなかった。これ以上和真に手を出して来たらきっと俺はもっとひどいことをしてたかもしれない。俺の事を軽蔑するか?」 「まさか!しないよ!それだけ健吾が僕の事思ってくれてるってことでしょ?嬉しいよ」 「俺はもっと自分は自制出来る人間だと思い上がってたんだ。だが、お前の事だけはダメみたいだ。自分の気持ちを制御できねえ」 「健吾。それなら僕が健吾の暴走を止めるよ。ずっとずっと健吾の事だけを見て健吾だけを愛するよ」 「すまない。悪い男にひっかかったと諦めてくれるか?」 「悪い男って。それって僕のことかもしれないよ。健吾は僕のせいでそうなったのに」  「はは。じゃあもっと俺を翻弄させてくれるか?」  

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