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第1話-1 幼馴染で親友
堅苦しい制服を着崩してシャツの襟元を緩め、ネクタイを引き抜く。
「やってられねえぜ」
卒業式の途中、校長の挨拶が終わったところで俺は講堂を出た。教師たちは俺が机の上で寝てようが、あくびをしようが皆見て見ぬふりだった。要するに出席日数が足りるように授業に顔出しさえしてくれればいいという事だったのだろう。それで穏便に俺を卒業させようという魂胆だったのだろうな。
「はっ。くそくらえってんだ!」
卒業証書さえ受け取ればもう俺にも用はないだろう。腫れ物に触るような扱いばかりしやがって気分が悪い。だからといって今更おおげさに騒いだり卒業式自体を邪魔する気にもならねえ。そんなことしたらあいつが困るだろうしな。
「ちぇっ。しかたねえな」
俺の家は代紋をかかえた家だ。俗に言うヤクザっていう家業だ。そのせいか小さい頃から俺は世間の大人から遠巻きにされていた。俺自身何かをしたことがなくても後ろ指さされる事は多い。どれだけ俺が頑張っても、後ろにいる親の顔色を見る奴がほとんどだ。
そのうち、俺もその理不尽さに暴れるようになる。元々親父譲りの体格の良さでアスリート並みの筋肉質な身体は同年代のやつらよりひとつ抜きんでていた。その上、顔のパーツだけは母親似だったせいか、かなり目立つ存在になっちまったようだ。
俺の母親は黙っていたら美人と呼ばれる部類で、昔は女神様とか拝まれてたらしい。親父と結婚した時は美女と野獣夫婦ってあだ名されてたようだ。だが、キレた時の恐ろしさは親父より夜叉と呼ばれていた母親の方が太刀が悪いことを俺は知っている。
雑踏を通り抜けて人がまばらな裏通りに出る。さきほどから俺の後をちょろちょろついてくる奴らがいるからだ。めんどくせえがこの辺りなら人の迷惑にはならねえだろう。立ち止まると同時に声がかかった。
「お前か。立花いぶきってヤツは?」
後ろのちょろは他校のヤンチャな生徒達みたいだ。何故か目をつけられてしまった。
「だったらどうした?」
育ち盛りの俺はかなり身長が伸びた。目の前の奴らのつむじが見える。
「チッ。デカイからって上から見下ろすんじゃんねえぞ! お前生意気なんだよ!」
下から見上げるように俺を睨みつけてくる。
「知らねえよ。朝日を浴びながら逆立ちしたら背が伸びたんだよ」
「え? そ、そうなのか?」
うそだよ。ばーか。気をそらす為のうそっぱちさ。
「っんなわけねえだろっ!」
俺は一瞬の隙をついて相手を殴り飛ばした。怯んだ相手の仲間たちを次々と投げ飛ばす。先手必勝だ。
「お、お前っ。綺麗な顔して、やる事が汚ねえぞっ」
捨て台詞をはいて奴らが逃げていく。
「うるせえ。好きでこんな顔してんじゃねえ!」
小さい時は女顔がコンプレックスだった。だが成長と共に丸みを持ったラインが鋭角になり少しはマシな男らしい顔になってきたように思ってはいる。
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