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第4話-1夜叉との対峙
結局。俺の方が堕とされちまった。いやもともと堕ちてはいたんだけど、身体まで堕とされちまった。いぶきの俺への気持ちは親友止まりだと思っていた。だから俺なしじゃいられないような身体にしてしまおうと画策したのにあっけなく返り討ちにあってしまった。
「さすがは俺のいぶき。天然の名器だ」
口元が緩んで仕方がない。しかし、これは浮気されない様になにがなんでも繋ぎとめねえと。今よりもっと俺自身を磨き上げて良い男にならないといけないな。
RRRRRRR。
ふいに手元のスマホが鳴る。やはり来たか。いぶきが眠っていてよかった。
「はい。もしもし」
「レンちゃん、久しぶりやね。ウチのいぶきがいつもお世話になってごめんやで」
「おかみさん。お久しぶりです」
電話の相手はいぶきの母親だ。このタイミングでかけてきたって事は俺といぶきの間に何があったのかもわかってるはずだ。きっとお目付け役にいぶきを見張らせてたんだろう。
「何よ、もぉ。水くさいなぁ。いつもレンちゃんがいぶきの後かたずけを手伝ってくれとるのは感謝しとるんよ」
俺がいぶきの周辺を排除していたのもバレてるぞと言いたいんだろうな。
「ウチはなぁ、あんたのたぐいまれな頭脳と処理能力の高さを買っとるんよ。以前提案してくれたタピオ〇ミルクティーや溶〇パスタの店なんかええ『シノギ』になったし、流行りもの取り入れるのもええなあって思ってな。それにあんたの人を罠に嵌め、弱みを調べ上げる情報力はたいしたもんやなぁ。そろそろウチの組に入ってもらえへんかなぁ」
『シノギ』とは売り上げの事だ。おかみさんからは何度となく勧誘はされている。要するにこれは脅しだ。お前が裏でいぶきに隠れてしていることは全部わかっているんだと言う意味の。ただし今入ったとしてもなんの利権もない俺じゃあ格下の使い走りで終わるだろう。それじゃあダメなんだ。確実にいぶきの隣に立てるだけの力を身につけなきゃ意味がない。
「それについてお願いがあります」
「なんや言うてみ。あんたの事は小さい頃からよう知っとる。ウチにはもう一人の子供みたいなもんや」
「俺が入る時はいぶきから盃を直接もらいたいんです」
「あんた、うちの人やなく、息子のいぶきと義兄弟になりたいって言うんか?」
「その代わり俺の人生のすべてをいぶきに捧げます」
「いぶきはまだ学生や。一人前になるにはもうしばらく時間がかかるのをわかって言うとるんか? 組長を拒否して跡目のほうに肩入れするって言うんか?」
「いぶきが一人前になる前に俺が組にとって利益になる男になります」
「……ふっふっふぁはははははっ。ええ啖呵切るようになったなぁ。他の奴ならそんな夢物語り笑い飛ばして簀巻きにして沈めてまうんやがな。あんたは一本筋が通っとる。それにいぶきの為なら実現してみせるやろう。わかった。レンちゃんに賭けてみるわ!」
「ありがとうございます!」
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