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第1話 一人暮らしの武器商人

剣に槍、弓、銃。武器が産まれたことで争いは増え、多くの命が失われた。 時代が移るにつれ神術や呪術を扱う者も現れたが、その力を開花させるのはほんのひと握り。 自分もそうだがせいぜい一国に五、六人いるかいないか。小さな火を出現させる程度のものから地形を変える神術まで、力の幅もまるで違った。 大きな力を持つ者が革命を起こそうとしないのは、まだ武器の存在が抑止力になっているからである。 どれほどの術を持ち得ていたとしても、大国が協力し合って兵と武器を用意すれば、世界戦争に繋がる。資源も人も失われた土地を手に入れても仕方がない。 どんな国も必ず一つ、他所にはない資源を獲得している。隣のサンセン王国は農作、北のヨキート国は羽毛や木綿、絹などの織物。そしてこのランスタッド王国は武器生産。百年以上前に世界がひとつになったことで領土争いは無縁となったが、未だに武器の需要は高い。 冷静に考えると、争いがなくなったのに武器がなくならないというのはおかしな話だ。 ランスタッドは元は小さな町だったが、武器屋の一族がいた為、他国から生産の依頼を受け続けた。その見返りとして大国から庇護され、王族が生まれた。町の者は兵として招集されることもなくなり、やがて世界の三分の一に近い領土を占める大国に成長した。 ほとんど実用されない武器を造り続け、他国に輸出する日々。 各国が平和を謳い、しかし地下に巨大な研究施設を拵えている。人間という生き物の恐怖、醜さ……武器の存在は負の感情を象徴している。武器を生み出したことも、また失くすことができないのも、所詮は弱さ故だ。皆心のどこかでは分かっているが、決して口に出さない。 けど、自分は違う。信念の為に王を敵に回す覚悟がある。 ランスタッドの中央には巨大な城がある。王族だけでなく一部の貴族も住まうその城の最上階で、明るい銀髪を靡かせる青年がいた。白く大きなローブを脱ぎ、見晴らしの良いテラスへ出た。まだ夜明け前で、薄紫の空が果てしなく続いている。 実質的には武器商の最高権力者の青年、ノーデンスだ。 古くからこの地に住んでいた武器職人の一族であり、父親が病で亡くなった今、一族の長でもある。まだ二十六歳だが、鍛冶師達を取り纏めているのは理由があった。 ノーデンスは高い神力をその身に宿しており、自身の気を込めることで精度の高い武器を造ることが可能なのだ。 今では武器造りに携わることはせず、原料となる銅や鉛など鋼材に神力を込め、それを鍛冶師に与えている。神気が満ちた材料は、時にノーデンスも驚くような武器に生まれ変わる。無限の可能性に気付いてからは新たな武器の製造と輸出に重点を置き、指揮をした。それも全てある目的の為だ。 ランスタッドは鍛治屋の集まりが暮らしていた土地で、さして認知もされていなかった。現在でこそランスタッド「王国」などと公言しているが、王族は終戦の頃に他所の地から転がり込んできた貴族に過ぎない。美味しいところだけを横取りする今の王族に対しノーデンスは嫌悪と憎悪しかなく、一刻も早く追い出したいと思っていた。それも言わばひとつの「革命」に等しいのかもしれない。 多くの血が流れることも覚悟し、王族と争うべきかずっと考えていた。皮肉なことに王族という「飾り」があるから外交がしやすく、他所からのプレッシャーも最小限に抑えられている。曲がりなりにも強国としてやってこられたのは、彼らのおかげもある。 だからそれでも侵略者を排除したいという野暮を抱えている────。 そしてこんな時に相談したい一番の相手は、ノーデンスの前から忽然と消えてしまった。

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