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第19話

なんてこった……。 壁に手を付き、ノーデンスは途方に暮れていた。 確かにオッドの説明を最後まで聞かなかった自分が悪い。だが誇らしげに持って帰ってきた薬が実は試験段階だったとか、万全な状態じゃなきゃ想像できない。 また不安のパラメータが上がったが、時計を見て我に返る。ふざけてる間に式の時間がぎりぎりに迫っていた。慌てて身支度をし、小走りで廊下を進んだ。 回廊の柱の間から、開会式に参列する王侯貴族の姿を見下ろす。 ほとんど走りながら腕時計や指輪を確認していると、オッドが驚いた顔で隣に並んだ。 「ノーデンス様、そんな走って大丈夫ですか!?」 「そういえば普通に動けるな。即効にしても速すぎる気がするが……案外当たりだったのかもしれない」 どうやら顔の火照りもおさまったらしく、オッドは感嘆の声を上げた 「良かった! 式が終わったらウチの精鋭達が護衛につくのでご心配なく。ノーデンス様には離れた場所で休んでいただきますから」 「でも熱が下がったら休む必要自体なくなる」 「お忘れですか? 効果はあくまで一時的なものなんですよ。貴方の体調次第でまた熱が上がるかもしれない……けど、もう薬はありません。今度はちゃんと医者に看てもらわないといけなくなる」 発熱したと陛下に知られたら、祭典が終わるまで監視付きで医療室に閉じ込められる可能性がある。それは避けたい。 「そうだな、分かった。……式が終わるまでだ」 深く息をつき、開会式が行われる会場へ入った。既に王族や招待客は各々席についている。 城の正面に設置された囲いの中に市民が集まり、国王の登場を待っていた。 音楽隊の演奏と共に国王陛下が現れる。民はもちろん、自分達も立ち上がり、大きな拍手を届けた。 陛下の祝辞は例年より短く、国の旗を掲げるだけの為、想像以上に早く終了した。 陛下を含め、王妃も城の中へ戻っていく。大きな花火が打ち上がり、歓声が響いた。 これから街は出店やパレードでさらに盛り上がる。 このめでたい日に怒りを振りまこうとしている奴らがいるかもしれない。 部屋へ戻る途中、他国の軍人や武器商人から声を掛けられた。本当ならここで新しい仕事や人脈を作れるのだが、適当な言い訳をして立ち去った。 今のところ気だるさはないが、いつ薬が切れるか分からない。安全な場所に避難する方が賢明だ。 城の中へ入れば、音はぴたりと止む。広間では賑やかなパーティが始まってるはずだが、人のいない通路は怖いほど静かだった。 今日だけはランスタッドが世界の中心にいるのに、不思議だな。 「ふぅ……」 もたもた歩いていたせいか、自室までの距離がいつもの倍に感じた。鍵をかけ、いつでも出られるように近くの椅子に凭れる。 少しでも異変があれば端末から連絡が入る。それまで少し休んでいよう。

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