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銀次の場合

 銀次のクリスマスに関しては、もう共通事項。  鳴子から尋ねてきてくれた人形ちゃん、もとい玲香ちゃんにとのランチ会だ。  仕事が決まってしまい、京介は行けなくなったが。 「俺も参加したかったな」  ぼそっと京介が言うのに、まっさんが 「可愛い子なんだよ。あんなホラーな人形だったとは思えない感じな、理性的で頭の良い子だったな」  車の後ろで いやあ〜それほどでも〜と銀次が照れる。  実際お付き合いはその時点でまだしていなかった。  ランチは全部で4人。  前に行った店の料理が美味しかったと言って、また同じところを予約しておいた。 「わがままで皆さんに来ていただいてすみませんでした」  待ち合わせの場所に着いた途端に、玲香が頭を下げてきた。  ロードで顔なじみになっていたために、初めましての挨拶はなかったが、てつやなどはホラーなところしかまだ知らなかったから、一緒にきたまっさんに、こええんだけどこええんだけど、と連発してきたために少し驚きを隠せなかった。 「いや、いいんだよ。それより遠いところから来てくれてありがとな、『銀次のために』」  まっさんがそう言うと、玲香がちょっと頬を染め、銀次はその後ろで 「ちょっそう言うのやめっ!」  とバタバタしている。  玲香の様子を見て、まっさんとてつやは顔を見合わせうなづきあった。 ーこいつには今日、決めさせようー  レストランに付き、玲香はてつやにエスコートされ店に入っていく。てつやは、今はこんなでも案外こましだった過去がある。 「よく見とけよ」  まっさんが銀次に呟いて、男二人で中へ入る。  メニューを見て、今日はきちんと肉魚を選べるコースをさりげなく進めたてつやは、 「昼間だけど、ちょっとだけワインいっとく?」  とカジュアルに聞いてみる。 「そうですね、1杯くらいなら」 「よし、そう来なきゃね。銀次は送っていく手前酒はやめとけな。安全に送り届けないとな。駅までだけど〜」  よく見とけよって、てつやの女性あしらいだと思うけど、このチャラさはちょっと学べねえな。  と銀次は思っていた。  メニューが決まり、注文を終わらせしばしご歓談時間。 「ねえ、玲香ちゃん?」  水のグラスを口にして、てつやが目の前の玲香を見て首を傾げる。 「はい?」 「なんで銀次だったん?」  めちゃくちゃストレートな質問だ。  流石の玲香もちょっとむせてしまい、ナプキンで口元を押さえてしまう。 「ストレートすぎますよてつやさん。ケホケホ」  隣で銀次もちょっと睨み顔。 「気になっちゃって」  あははーと笑って、てつやは水を一口口にした。 「そうですねえ…みなさんの中で…1番隙があった…からでしょうか」  その返答に3人少しびっくり。 「あ、いえ変な意味ではなくて、なんて言うかこう…他の皆さんが隙がなさすぎてって言う感じですかね」  何度も優勝をしているてつやのロードでの名前は良くも悪くも大きく、そのてつやをフォローしている仲間も一緒に、誰もが知る存在となってはいる。  その全員を見ていて、の玲香の素直な感想だろう。 「なに?どんな感じ?俺ら」  これにはまっさんも興味深く尋ねてきた。 「てつやさんは…可愛らしい容姿ですし一見素直そうで優しそうなんですけど、遊んできた印象が強くて手に負えない印象っていうか…」  ドキッとした 「まっさんさんは 女性の好みが一貫していてそれ以外の女性は眼中になさそうで」  当たってる…とまっさん 「あ、私も男性を物色する目で見ているわけではないです。でも、ちょっとやっぱり色々考えながら見てしまうので、目立っているあなた方もついそう言う目で見てしまって…それで京介さんは…てつやさんしか見てないですよね。それでなくともてつやさん同様、手に負えない感じがしました」  3人は感心してしまった。 「超能力者かと思うほど的確だね」  まっさんが舌を巻く。 「京介のなんかもうさ、ほんとすごい」  銀次も感心した。 「アルバイトから始めてサービス業はもう5年目なんですけど、お客さんを客観的に見てしまうのが癖になってしまいました。サービスと言えど嫌な人は嫌ですから、警戒のために人を見てしまう癖がついてしまって」 「で?それで銀次なん?」 「銀次さんは…誤解を承知で言ってしまうと、普通の方。『優しい』が素直に優しいですし、感情表現がとても豊かで実直。そういうところが…いいかなって思います」  途中まで話していて、まるで告白のようになりかけているのに気づいて、玲香の声が小さくなった。  まっさんとてつやは、顎で銀次に指示するが、いまいち伝わらない。 『なんか喋れっての!』  口パクで伝えるが、ん?とした顔で見られるだけ。  そのうち、オードブルが運ばれてきて、食事会が始まってしまった。  てつやが玲香と話を深めている最中、まっさんはずっと 『いけ。今だぞ』  のサインを送り続けているが、てつやと玲香が仲良く話しているのが気がかりで気が回っていない。  仕方ねえな とまっさんはテーブルの下からスマホで銀次にメッセージを送る。 『お前今日中に決めろよな。さっきのチャンスなんで逃すんだよばか。てつやがチャラく嫌われてるうちに行っとけよ』 『チャラくって、ずいぶん仲良く話してるじゃねえかよ』 『わざとやってんだよ!彼女はお前と話したいに決まってんじゃんか。任せてねえで話せ。さっきからちょいちょい猥談混ぜてるから、そん時に止めてやれ』 『えええ〜〜』 『えええ〜じゃねえよ!今日決めとけよ。まあ俺らがいなくなってからでもいんだけど それだと信用ならねえ』  余計なことはあまりしたくはないけれど、このまま放置したらせっかくクリスマスに来てくれた彼女をそのまま返しかねない。 「でさ、そいつは女の子のスカートの中に夢を感じてるわけ。中身なんか見慣れてるのにさ、なんであんなにスカートの中に執着するのかねえ。とか言って俺も…」 「てつや、やめとけよ。その話は女性に失礼だぞ」  玲香が密かにほっとしたような顔で銀次を見つめ、てつやは密かに微笑んだ。 「あ、ああ〜まあそだよね。スカートの中の話なんて女性にはちょっとあれだったな ごめんね玲香ちゃん」 「お前さっきからちょっとずつエロ話してっけど、玲香ちゃんなんだと思ってんの」  怒るとまじなんかよ〜 内心吹き出しそうになりながらも耐えて 「だから謝ってんべ、ごめん〜」 「誠意がねえんだ…」 「あ、電話。京介からだ、ちょい待ち」  てつやは電話に出ながら、銀次ではなく玲香に片手で謝って席を立っていった。 「俺からもすみませんでした、玲香ちゃん。あいつ興にのるとあんな感じで」  お恥ずかしい…と苦笑いをしてパンを一口口に入れた時、あ…となってスマホを確認。LINEが来ていた。 「店からだ、俺もすいません食事中に。ちょっと失礼」  そう言って店の奥へ向かう。 「なんなんだあいつらはもう!ほんとごめんね、玲香ちゃん」 「いえいえ、大丈夫。ちょっと一瞬内容に困っちゃう所ありますけど、てつやさんのお話は面白いし」  冷めないうちに食べるのも基本なので、玲香はお魚を切り分けて一口口に入れた。 「で…でさ、今日はどのくらいまでいられる?」  え?っと改めて銀次の顔を見る玲香だったが、切羽詰まった顔をして少し顔が赤いのはお酒は飲んでないからお酒のせいじゃない… 「あ、ええと…最終で大丈夫…」  銀次はスマホで時刻表を調べだす。  玲香の新幹線の最寄り駅、古川まで行くのは20時45分が最終だ。古川着が22時34分。ああ〜そんな遅くまで引き止められない!食事が終わって二人で遊んだとしてもそうそう時間はなさそうだ。じゃあ、じゃあやっぱ今決めないと…なのか…  銀次の頭の中はほぼパニックを起こしかけていた。これがまっさんの策略だった。やっぱりまっさんは怖い。 「どうだ?」  席が見える通路の陰から二人がのぞいている。 「なんかスマホ見てテンパってる」  てつやの言い方も大概だ。 「最終の新幹線そんな遅くないし、あまり時間がないと思わせないとなぁ。あいつ絶対いつまでいられるか聞くと思ったんだよ」  本当に怖い 「あ、なんかポケットから出した。クリスマスプレゼントかな」  ちょっと乗り出しててつやが確認する。 「ああ、やっぱそうだな。開けてもらって、喜んでるな玲香ちゃん」 「お?つけてやるのか?やるな」  まっさんも覗き込んで、二人の動向を見守っていた。 「よかった〜あいつがちゃんとプレゼント用意してて」  まっさんはちょっとほっとしたように呟いた。 「そこまで粗忽もんか?」  流石に銀次がかわいそうになったてつやが擁護するが 「粗忽もんっていうか、気づかない」 「あ〜ね」  クスッと笑って、そういうとこあるな、あいつ  と、テーブルに目をやって 「告ったかな…」  二人は玲香の様子を注視する。  ネックレスをつけてやりながら、ちょっと見つめあう時間があった。  その直後に玲香が少しだけ頷き、銀次の顔が晴れる。 「お〜あれは、いったね」 「だなぁ〜」  二人でグータッチをして密かに喜び合った。  あとは余計なこと言わずに、成り行きに任せよう。 「そろそろ戻るか」  まっさんの合図で取り敢えず先に、まっさんが戻り、てつやが1、2分遅れて戻っていった。 「ごめんね〜あいつ仕事中の愚痴を言いにわざわざ電話かけてきた」  しょーもないよなと笑って、食事を続けカトラリーをそろえた。 「あれ?さっきそのネックレスしてたっけ」  めざとく見つけたふりをしててつやが言い出す。 「これ、いただきました」  玲香が嬉しそうにネックレスに手を当てて微笑んだ。 「お〜銀次ぃ〜やるなぁ。ちゃんと準備してたんだな」 「当たり前だろ。クリスマスだしな」  どことはなしに嬉しそうな顔をして、銀次は玲香の顔を見てこちらも優しげに微笑む。 「じゃあこれ、俺からのプレゼント」  まっさんが内ポケットから封筒を出して、玲香の前に置いた。  表書きも何もない、少し大きめな封筒。  俺らと別れてから開けてな。ニコッと笑って、渡すためにあげた腰を落ち着ける。  気味悪!と思ったのは銀次だけ。  貰っちゃってもいいの?と銀次を見てくる玲香に、 「よかったね。あとで見せて」  と言ってもらい、玲香は頷いた。 「で、これは俺から」  玲香の前にチュッパチャプスを2本置く。  不思議そうにそれを見て、玲香はてつやの顔を見た。飴に不満があるのではなく、純粋にー何だこれーにはなる。 「俺の好きな人にタバコ吸わせないように持ってんだよ。お裾分け」  この場で何もあげないのがなんか悔しくての行動だった。 「バカなんかお前。もっと気の利いたもの出せねえの?」  とまっさんがツッコミを入れるが、玲香は 「てつやさんの好きな人…?タバコ…」  と例の探偵並みの推測を始めている。  てつやは言われるより先に教えてあげることにする。 「玲香ちゃんはもう、俺らの身内になったから教えておくね。俺の好きな人は京介。俺と京介は付き合ってます」  玲香が両掌を口元で合わせて驚いた顔をしていた。 「あ〜〜、気持ち悪いと思っちゃったらごめんな。近づかないようにするけど、まあ事実だし、いずれ知られちゃうと思ってさ」  まっさんも銀次も、この潔さには驚かされる。 「いえ…なんか…素敵!」 「へ?」  3人が一斉に玲香を見た。 「京介さんの想いが通じたのかと思うと感動して…」  あ、この人面白い人だ…と3人はその時に悟る。 「成り行きは〜まあ おいおい銀次にでも聞くといいよ。理解をしてくれてありがとう」  てつやは笑って、サービスでもう一個とチュッパチャプスを玲香の前に置いた。  玲香もありがとうと笑って受け取り、ちゃんとバッグにしまってくれる。 「てか、てつや…さっき玲香ちゃんのこと『身内になった』って言ってたけど」  銀次が思い出したように言ってきた。 「俺がお手つきだろうとなんだろうと、お前が今日決めることにかけてっから」  銀次がピッと喉を鳴らして背筋を伸ばす。  結構なプライベートの秘密を玲香に打ち明けたてつやに、銀次は自分の肩に『責任』が重くのしかかってきたことを感じた。  まっさんは呆れたようにてつやを見て『半ば脅迫だよ』と一人苦笑。  食事が終わって会計の段になった時、店員さんをテーブルに呼んだてつやは、自分のカードで全て決済してしまう。 「俺らの分は払うからあとで言ってな」  銀次がそういうと 「これが本当のクリスマスプレゼント&新しいカップルへのプレゼントだ。受け取っとけ」  中々見ない男前な顔つきでそういうてつやに、玲香は少し頬を染め頭を下げ、銀次はどこでバレたんだろう、みたいな顔で呆然としていた。 「あ、まっさんは払ってな」 「ケチくさいこと言うなよ〜寂しい俺にもプレゼントしろ」  そんなドタバタでランチ会は終了した。  二人と別れて銀次と一緒に車へ戻った玲香は、先ほどまっさんから貰った封筒を思い出した。  助手席で封筒を出し 「これ、開けてみてもいいかな」  と銀次に聞いてみる。 「あ〜それな。何だろうな見てみようよ」  と言われ、玲香は糊付けされていない封筒から中身を出し 「これって…」  と絶句して頬を赤らめた。 「はあ?なんこれ」  銀次も顔を赤くして玲香の手の中のものを見る。 『ロイヤルパレスホテル宿泊券~suite room ~』  この街で1番いいホテルだ。 「あのやろ!」 「なあまっさん?」 「ん?」  まっさんのエクストレイルの中で、てつやが聞いてきた 「さっき玲香ちゃんに渡した封筒さ、あれなんなん?」 「ああ」  と言うだけで笑ってるまっさんに 「なんだよ、教えろよ」 「今にわかる」  そう答えた瞬間だった。まっさんのスマホが鳴り、その鳴らしてる主は銀次だ。 「運転中だからお前出て」  てつやはうい〜といって電話に出る。が何も言わないうちに向こうから 「まっさん!これなんだよいきなり驚くべ!こんなん…え、こんなんどうしろって!」   てつやはスマホを離して叫ぶ声を散らし、めんどくさいからスピーカーにする。  そしてまっさんは一言 「まあ、がんばれや」  といって、てつやに切るようにいう。  なんか面白くなって、てつやは素直に電話を切った。  しかしイマイチ要領を得なかったてつやは 「結局何なんよ」  と再度聞いてみる。今のでは確かに分かりにくいと思ったまっさんは素直に 「ロイヤルパレスの宿泊券だよ」  と教えてくれた。  てつやは大爆笑を起こし、はらいてーってとしばらくの間笑っていた。 「まあその後のことは俺は知らねえし、聞いてもねえからわかんね」  笑ってそんなことを言っているまっさんを、京介は運転席から見て『今1番何とかしてやりたいのはあんただよ』と 思っていた。  率先して仲間のまとめに徹して、お兄さんだかお父さんだかの役目を引き受けてしまうまっさん。  自分で言える立場じゃないが、仲間(兄弟)の幸せを見届けてからなんて思ってんじゃないだろうな、とまで思ってしまう。  まだ文治がいる。まさか文治まで待ってたら、流石に中年になりそうなので、そろそろ動こうかなとも思う。  京介には、まっさんに紹介したい人物が一人いた。  年齢的に結婚を意識するようだと慎重にならざるを得ないが、『彼女』でいいなら気の合いそうな人物がいるのだ。  まあ、結婚てことになっても彼女ならやっていけそうかなと思う女性でもあって、実は合わせるチャンスを狙っているのだ。 「どうなん?銀次」  後ろでてつやが面白がって聞くが 「あれから正式にお付き合いを申し出て、受けてもらっただけだ」  としか言わない。  まあ、その辺は相手もいることなので深く追求はやめておいた。 「銀次さんおめでとー」  文ちゃんも拍手で銀次を祝福してくれた。  車は東北道に入って久しい。 「最初の休憩はどこにする?」  京介が聞くと、 「佐野」 「宇都宮」 「上河内」 「那須高原」 「軒並み言えって言ってんじゃないのよ」  京介は『ふざけんな』と笑う。  一行のお正月。鳴子温泉での一幕は、また次の機会に。

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