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てつやの場合2とまっさんと文ちゃん

 車内はちょっとしんみりしていた。  マンションを建てる話は全員が知ってはいたし、ばあちゃんの引っ越しの手伝いなんかはもちろんやるんだけど、自分らにとっても仲のいいあのばあちゃんが、こんなしんみりと話すのを聞くのは初めてだった。 「なんだよ、お前のクリスマスいいクリスマスだったじゃねえか」  銀次がちょっと目元を拭いながら言う。 「だから言ったろ?俺のクリスマスはちょっと違うって」  うはははとご満悦なてつやだが、本当にそれで済んだかというとそうでもなかった。  ばあちゃんのところを22時半ごろ引けて、自室に戻ろうと建物脇の階段へむかおうとしたときに、目の前の道に京介がちょうどやってきていた。 「あれ、お前来られたんだ」  ばあちゃんとのやりとりで、ちょっと目元が赤くなっていたてつやを見て 「ばあちゃんと話してたのか?」  と先を促すように階段へてつやを送り、自分もそれについてゆく形で階段を昇り始める。 「ん、ちょっと色々話してたら…泣けること言いやがってあのばあちゃんさ」  鼻を啜って、少し泣いてしまったことを白状しながら階段を昇り、部屋の鍵を開け部屋へ入った…途端にてつやは京介に抱きついた。 「ん?どした?」  優しい声で抱き留め、肩に顔を埋めるてつやの髪を撫でてやる。 「俺さ…アパート買い取りなんて、ばあちゃんに酷いことしたんじゃないかっておもってたんだ…。思い出の土地俺なんかが買っちゃってよかったのかなって」  うんうん、と髪を撫でながら、京介はてつやに靴を脱ぐように合間に言い、自分もてつやを抱きしめたまま居間へと向かった。 「でも、ばあちゃんがありがとうって…言ってくれた。俺間違ってなくてよかったって思ったらさああああ」  ぎゅうっと締め付けるように抱きついて、なんか大泣きを始めてしまった。 「他の人に買われなくてよかったって言ってくれてさあ」  泣きながら言うてつやを、京介はずっと抱きしめてうんうんと聞いてやっている。  暫くの間ギュッとされていたが、少し落ち着いたのかてつやが身体を離した。 「ごめん急に…」  少し恥ずかしくなったのか俯いて、京介のコートの脇腹を掴んだ。 「悪いことなんかあるわけがないと俺はずっと思ってたし、お前の気持ちが井上婆に伝わってたことは俺も素直に嬉しいよ」  両手は腰に回したままの京介はそう言って引き寄せる。  唇が合わさって、軽いキスで離れる。 「いいクリスマスイブだったな、で、俺が寄った理由だけど」 「あ、そうだよ、お前どしたん?仕事平気なんか」  仕事より大事なことがあって…と京介はコートのポケットに手を入れ小さな箱を取り出した。  それは以前のブレスレットより少し小さめな箱で、開けてもらったら青いベルベットの…箱…?  京介はそれを取り出して開いてみせた。  前に一度見に行ったことのあるてつやが気に入っていた指輪だった。 「お前…これ…」 「前に行った店で、オーダーしておいたんだ。付けてくれるか?」  少し前に『指輪を買う!』といきりたったてつやが、見に行ったきりになっていた指輪をやっと渡せるタイミングが来た。  これはやっぱりクリスマスに渡したいと思うのは必然だ。が  そういって箱から指輪を外そうとした京介の手を止め、てつやはちょっとまった…と居間のテーブル上に置かれた小さな袋から箱を取り出し中身を出してやはり同じように開けてみせた。  一緒に行った店で見ていた同じ指輪がそこにはあった。 「これ…」  京介もいささか驚いた。全く同じ指輪のサイズ違い。お互いのしか用意していないところ、何もかもがもう…こいつはほんとうに俺の…  「俺も…オーダーしておいたんだぞ…」  二人は次の瞬間笑いあって再び抱きしめあった。  こんな合う人間はいない。ベターハーフってこういうもんかな。色々考えながらキスをして、それから二人して指輪を取り出した。 「俺が先にお前に付けたい」 「うん」  言われて京介は左手を出す。その手を取って、てつやは京介の薬指へと指輪をはめた。  そして今度はてつやの左手を京介の左手に置いて、てつやの薬指に、京介が指輪をはめる。  ちょっと見つめあって再びキスをした。  今日のてつやはいつになく乱れていた。  ちょっと酒も入っているようだったが、ちょっとやそっとの酒で酔うようなやつじゃない。  京介は後ろから攻めながら、愛しい乱れ具合を堪能していた。  いつになく声をあげ、こうしてつながってる最中もてつやの腰は誘うように揺れ自分を高めるように蠢いている。  京介が奥まで突くと声が上がり、その部分がきゅっと締まったと思うともっとというように緩み中が絡みつくようにフィットしてきた。 「この感触…お前のしか知らない…」  そう言われてもなんのことかはてつやにはわからない。が、京介しか知らない俺が増えるのは嬉しいことだ。  その絡みつきを堪能するようにゆっくりと腰を前後させ、今日のてつやに合わせるように身体を打ちつけた。  打ち付けるたびに反応する声と身体がますます愛おしい。こんな日に…世の中の『性なる夜』なんていうのに乗っかるのも癪に触るが、それもどうでもいい。  京介はシーツの上を彷徨うてつやの左手に上から手を重ね、指の合間に指を絡ませ逆恋人繋ぎをした。  薬指の指輪が並び、なんとなく口元が微笑んだ。  指を絡ませられた時点でてつやもそれに気づき、覗き込んできた京介と目を合わせて一緒に微笑むと、手を引き寄せてそこへキスをした。 「京介」 「ん?」 「愛してる」 「俺も愛してる」  それを機に、京介はお互いを高みに上げるべく動き出し、てつやは感じるままに声をあげ、そして一緒に果てていった。 「何があったかは想像つく分…京介が来た辺りからの話要らねえな」  まっさんがポッキーを咥えて、実に嫌な顔をした。  文治は隣に座っていたてつやに、みせてといって左手を取った。 「綺麗な指輪だね。てっちゃん人妻になったの?」  車の中の全員が吹き出して、誰も飲み物飲んでなくてよかった状態になる。 「い、いやぁ〜俺は妻になった覚えはぁ…」 「じゃあ京介さんが人妻?」  そうくるんじゃないかと思ってた分、驚きはしなかったが、京介も 「俺も妻にはなれんかなぁ」  と、タバコが吸えない分チュッパチャプスを咥えてそういう。 「まあ…どっちも夫でいいんじゃねえの?文治もさ、レンアイしたら気持ちわかるよ」  一番後ろに一人で座らされた銀次が、いまいちわかってなさそうな文治の肩を撫でて、宥めてやる。 「でも俺てっちゃん好きだよ?ん…みんなも好きだけどさ…」  全員がなんだか汚れたものが洗われるみたいな顔になって、少し車内が静かになった。 「そういう文治はクリスマス何してたん?」  銀次が静寂を止めてくれる。 「俺はねーバイトだったよ。忙しかった。みんな来るからさ。でも忙しい方が楽しかったし、終わってからチーフの人がケーキ買ってくれてて、店でみんなで食べたりしたしねー」 「よかったな。文ちゃんが楽しんでくれてて安心した」  水のペットボトルを口にしながら、反響音でそういうてつや。 「なにそれおもしろい」  文治がそれに食いついて、自分のペットボトルでボーボーやり始め、うるさいぞとマッサンに怒られていた。 「みんないいなぁ 俺なんかなんもなかったぞ。いつも通りの日だったわ」  相変わらずポッキーを食べながら、まっさんは前を向いたまま話す。 「かーちゃんと鍋食って、一応ケーキを用意してくれたみたいで食ったけどさ…かーちゃんと食ってもさあ」  と、ぼやき節。 「まあまあ、今しかできない親孝行だぞ。お前に女できたらもうかーちゃんなんて目にも入らねえんだし。いいじゃん親孝行で」  運転しながら京介が宥めてきた。  まあ確かにそうなのだ。まっさんとこは、父親がいなくなってから母子で頑張ってきた。  母親にしてみたら頼れるのは息子のみだ。いつかは…とは絶対に思っているはずだが、まだ一緒にご飯を食べてくれるうちは一緒に過ごしたいとも思っていると思う。 「お前上手い言い方すんね」  満更でもない慰めに、少し気が楽になったまっさん。それでもまあ、彼女が欲しいのは本音だった。

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