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1日目:調教開始

 「よく眠れたか?さぁ、シンジ。調教の時間だ。」    仕事の辛さを苦に回送電車に飛び込んだのは、たった昨日の出来事らしい。  そして、どうやら、ここが退廃しきった魔族中心の異世界であるということも、残念ながら悪い夢ではない。まあ、夢であったらあったで、シンジの前には真治としての何の色味もない灰色の会社員生活が待ち受けていることも確かだった。首輪に繋がった鉄製の鎖をジャラリと引かれ、居場所として与えられた檻の中からのろのろと引きずり出されるままに裸足で床を歩く。  昨日、触ったことも触られたこともない結腸の奥まで掃除蟲(スカベンジャー)に捏ね回されて幾度も絶頂し、汗と精液に(まみ)れた身体は、赤黒いぬるま湯で満たされた湯船に漬けられて丹念に洗い清められていた。シンジの世話をしたのは、性器も尻や胸の膨らみもない、つるりとした肉体の人間の奴隷たちだ。声帯がなく、性別もない不気味な人間たちを、ザラキアは『労働奴隷(レイバー)』と表現した。  「無駄吠えも無駄鳴きもせず、血統管理を無視して勝手に殖えないように改造された人間。」  そう説明されると、改めて、魔族が暮らす街の恐ろしさを思い知らされる。かえって、性奴隷の身分の方がまだ人間らしさを保っていられるのではないかとさえ感じた。  今日は既に、簡素な寝床がある檻から出される前に食事を与えられ、そして、両脚の間から潜り込んで肉穴の奥まで舐め尽くすあのおぞましい蟲の洗礼を受けていた。勝手に絶頂したらきついお仕置きだ、と言い聞かされながら犬のように四つん這いになって、体内をずるずると動き回る蟲が生み出す快楽を、汗まみれになって歯を食い縛りながら何とかやり過ごす。  それが当然であるかの如く、シンジをはじめとする人間たちには、首輪以外の衣服は与えられていなかった。だが、常に全裸でいることにはどうにもまだ慣れない。ザラキアに鎖を引かれて石造りの薄暗い廊下を歩きながら、彼の仕事場である『調教室』まで連れていかれる間、シンジは、頬を真っ赤に染めながら両手でそっと股間を隠していた。  「さて、昨日と同じ調教台だ。自分で上がって、足を乗せな。」  「──は、はい…。」  それは、初めてここに来た時に縛り付けられていた、黒革で出来た分娩台のようなフォルムの椅子だ。さも当然のように命じてくるザラキアの言いつけに従うのは、まだ抵抗があった。しかし、身長百九十センチを超えているであろうと思われる褐色の痩身に、尖った長い耳と二本の角を持つ彼と、その手の届くところにある黒い乗馬鞭を目にすれば、元々臆病なシンジに逆らう術はない。実にのろのろとした動きで座面に尻を置き、両脚を高く上げて足置きに乗せる。これだけで、人に見られてはいけない恥ずかしい部分が余さず丸見えだった。  頬から耳、そして全身を真っ赤に染めて俯くシンジの両腕両脚を手早く調教台に固定すると、ザラキアはおもむろに椅子の真横に取り付けられたハンドルの取っ手をグルグルと回し始める。ガクン、と椅子が動き、ゆっくりと高く持ち上がると同時に、為す術もなく両脚が大きく割り開かれていった。  「──っや、…こんな…恰好──っ…!み…見ないでください──っ…!」  「はははッ、何面白いこと言ってんだ、お前。見ないでどうやって調教するよ。それに、人間の身体なんぞ、魔種にとってはどこもかしこも愛玩品だぞ?上等な性奴隷(セクシズ)なら、ご主人様(マスター)にじっくり見て貰えることをありがたく思え。」  調教のための椅子は大きく背側に傾き、両脚をM字に開かされ、身体はザラキアの胸の高さまで持ち上げられている。そこを人目に曝け出す、という生理的な羞恥を覚える姿勢に、思わずぎゅっと目を(つむ)り、外気に撫でられる両脚の間の穴の縁をヒクヒクと締め込んでしまった。生まれてこの方、あの気色の悪い蟲以外に何も受け容れたことのない尻の穴をこれからどうされてしまうのか、全く見当もつかないのが余計に恐ろしい。  薄目を開けて周囲をよく見てみれば、シンジのいる部屋は存外に広い石造りの部屋だった。まるで中世の城の地下牢のような一室の壁は棚になり、何かの瓶や容器、そして何に使うのかもわからない奇妙な形の道具がところ狭しと並べられている。部屋の隅には、十字型の拘束台や手枷足枷のついた巨大なベッドまであり、文字通り、性奴隷の身体を開いてありとあらゆる快楽を教え込む為だけに存在する部屋のようだった。

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