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エピローグ:SODOMの花嫁

 ドクン、と胸の中が喜びに高鳴る。  「それを…僕に?」  「あぁ、そうだ。終生奴隷にした人間がホームシックでメソメソしてたら陰気でやってらんねぇから、これはお前に決めさせてやろうと思ってな。」  ザラキアの手元で、一生を彼に捧げ、終生奴隷として愛玩されながら暮らす。  魔物たちが支配するこのソドムの街で、他の誰にも売り渡されることなく、甘く調教されながら、ザラキアだけのものとして生きる。  今のシンジにとって、これ以上の幸福はない。それは確かに首輪の形をしていて、性奴隷という不自由な身分なのかもしれないが、首輪もないのに灰色の社会の実質的な奴隷であった頃の生き方とは比べ物にならない希望に満ち溢れていた。  「…僕を、ご主人様(マスター)の終生奴隷にして下さい。僕は、ご主人様(マスター)の為なら何でもしますし、どんなことをされてもいいと思ってます。──ずっと、ご主人様(マスター)から離れたくありません。」  「はははっ、愛玩種のお手本みてぇな態度だ。…お前、これから一生、俺様専用のエロ穴奴隷に調教されるってのに、この街に来たばっかりの時とは比べ物にならないほどイイ顔してるぜ。…なら、いいだろ。契約成立だ。」  ザラキアは、ケラケラと大きな笑い声を響かせる。そして、片手の指先でシンジの顎先を捕まえてクイッと引き上げながら、黒革の首輪の上に指先を当てて小さな声で呪文のようなものを唱え始めた。  黒い、何の細工もされていない革ベルトが外され、代わりに、金の装飾が施された白く綺麗な首輪が巻き付けられる。主人と奴隷、その双方が望まなければ発動しない契約魔法で、これを固定されてしまったら、シンジにはもうザラキアの所有物として首輪の魔力の支配下に置かれ、主人のそばを一生離れることができなくなるという。  「──だから、終生奴隷の首輪を嵌めた性奴隷(セクシズ)の数は少ない。貴族や金持ちが、相当気に入った愛玩奴隷と終生契約を結ぶくらいでな。重い契約だから、この首輪を嵌めた人間は、『ソドムの花嫁』っていう二つ名も持つんだぜ。」  「花嫁──っ?!」  思わず、喉から裏返った声が出てしまった。  目を白黒させながら、脳内にリフレインするザラキアの言葉の意味を考える。金貨や宝石と引き換えに売り飛ばされることもなく、一生性奴隷(セクシズ)として添い遂げるというのだから、立場は違っても、それは確かに結婚と同じような意味合いになるだろう。  今更ながらに気恥ずかしさで真っ赤に染まるシンジの頬を、ザラキアがぴくぴくと片の先を揺らしながら不思議そうに見下ろしている。  「何だよ、お前。調教されてる時より赤いぞ?」  「…いえ、その。──何でもないです。嬉しくて。」  嬉しいのは確かだったが、こんなにも美しい淫魔の青年の『ソドムの花嫁』になるという実感は湧かなかった。つまりそれは、シンジが花嫁と呼べる程度には愛され、執着され、大事にされているということだろう。他人からこんなにも求められ、想われたことなど初めてで、戸惑いのあまりうろうろと視線をさまよわせてしまう。  ふと、ザラキアが思い出したように一枚のカードを取り出してきた。名刺のような大きさの、首から下げるホルダーに入ったプラスチックのカード。それにもまた見覚えがあった。たった一週間と少しばかり前のことだというのに、もう遠い昔のように思える、会社の入退室に使う顔写真入りの社員証だ。  「これは、お前の顔だな。それで、横には文字が入ってる。…難解で、俺様には読めない文字だ。──これ、お前の名前か?なんて書いてあるんだ?」  「…星野、真治。ホシノ・シンジ。…そう書いてあります。」  ゆっくりと答えて、ふっと目を伏せる。もう、高圧的な態度で『星野くん!』と上から呼ばれたり、理不尽に叱られたり、ネチネチと嫌味を言われたりすることもないだろう。

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