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エピローグ:契約のファーストキス
ザラキアは、その響きを幾度か口内で繰り返しながら、ふむ、と浅くうなずいた。
「ホシノってどういう意味だ?」
「えぇと…。夜空の星、そして野原…。星がきれいな原っぱ、みたいな、そういう意味じゃないですかね──。」
「…ふぅん。いいだろう。──気に入った。その名前、ソドムの奴隷血統書に残してやろうじゃないか。ホシノ血統・名前はシンジ。気性は従順で淫乱、体格は小柄な愛玩種向け…。どうよ。饗宴 のショーで、お前は文句なしの『最高級性奴隷 』と認められたんだ。迷い人 で血統書がねぇっていうイレギュラーは、これから血統書登録することで解消される。」
最高級性奴隷 。それはきっと、ザラキアが得た最高位性奴隷快楽調教師 の称号と同じように、性奴隷として誇るべき称号なのだろう。藍色をした、きらきらと輝く瞳がそれを物語っている。
ザラキアがふっと切れの長い両眼を細め、柔らかい微笑みを浮かべて黒髪をさらさらと撫でてきた。
「実際、お前は本当によくやった。たった七日間で、誰もが満足する淫乱ドスケベ性奴隷に仕上がったんだから。迷い人 という希少性はあっても、お前をショーに出せるかは俺にとってもなかなかのギャンブルだったぜ。…ヴィンテージの初物を捧げた、俺様好みのエロ穴に調教してやった性奴隷に、愛着がない訳ないだろ。」
魅力的な表情で片目を瞑 って見せる彼は、心の底からシンジを愛おしみ、慈しみ、飼い主としての優しさを注いでくれる。そして、軽く肩を竦めると、やや自嘲交じりに話し始めた。
「──魔族の階級は、人間が人間を支配する歪 な世界の上下関係より厳しいんだ。生まれや種族で生き方の全てが決まっちまう。いくら上級淫魔 とはいえ、ソドムの街では、淫魔の地位は低い。だから、俺様は何としてでも称号 が欲しかった。この街でサイコーの性奴隷調教師として、貴族の面々と対等に商売をするために、な。」
いくら相手が人間であるとはいえ、その手助けを立派に勤め上げたシンジを粗末に扱うようなことはしない。美徳が逆転し、退廃したソドムにも、それくらいの義理や恩義というものはあるのだとザラキアは言った。
やおら、琥珀色の肌をした腕が伸ばされ、シンジの身体を捕まえてグイッと寝台に捻じ伏せてくる。木造のフレームが二人分の重さを受け止めてキシリと悲鳴を上げ、シンジは、何が起きたか解らずに、自分を組み敷いて悪戯な笑顔を浮かべているザラキアの美しい顔立ちにしばらくぼうっと見とれていた。
「…んじゃ、契約するか。──キスだ、キス。ご主人様 の唇に、お前からキスして見せな。」
「は?──え、えぇッ…?!」
トントンと、自らの唇の高みを指先でつついて示すザラキアがさらりと発した言葉に、大きく目を見開いたまま凍り付いてしまう。もちろん、今までに異性とキスをした経験など、一回もない。
そんなシンジの、カチカチに固まり切って冷や汗を浮かべる表情を見て、ザラキアは全てを察したのだろう。信じられない、と言わんばかりの溜息が漏れ、顔がゆるゆると左右に揺れる。
「…お前、何から何まで本当に初めてか。あまりに貴重すぎて一周回って思わず存在を疑いかけちまった。──前の穴も、後ろの穴も、喉の奥からキスの相手まで全部初めては俺のモノ。…だったら、そんな奴、なおさら手放せねぇよなぁ──。」
不意に、唇の上にぐっと熱いものが押しつけられ、強く口を塞がれる。柔らかく、熱く、確かな吐息を感じる器官。
「っふ、──うぅぅ…ンっ?──っ!」
目を白黒させながら、ザラキアにファースト・キスを奪われたのだということを悟り、思考回路が凍り付いたままぐるぐると混乱するばかりだった。
ピチャ、という音を立てて、ザラキアの舌がシンジの唇を舐めてなぞってきた。そこを開け、とでも言うかのように、食い縛ってしまった歯列を舌先でちろちろと擽る。
窒息しそうで、必死で、鼻で呼吸することを覚えながら、ぬるりと口の中に潜り込んでくるザラキアの熱くぬめる肉厚の舌を受け容れ、咥え込んだ牡茎にそうするように、ぺろぺろと舌の腹を使って小さく舐めてみた。
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