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プロローグ

 俺は英雄になる。そのために生きている。  八月九日。午前二時三十七分。  何もかもが溶けてしまいそうな暑さの夜。  真っ黒な防刃防弾制服を着て、俺達は踏みつぶされてぺしゃんこになったジオラマのような街の中を駆けた。  吸う息も熱ければ吐く息も熱い。  冷却という概念など忘れ去ったようだ。  俺——ディヒトバイ・W・ヴァン・デン・ボッシュ少佐が参加する第四次悪魔掃討作戦は半数の隊員が死亡し、損耗過多により途中で撤退の判断が下った。 「殿は任せろ! 先に行け!」  先に走る隊員に向けてそう叫び、俺は足を止めて振り返った。 『馬鹿を言うな少佐! 君は人類の希望なんだぞ! 無事に帰ってくるのが君の仕事だ!』  耳につけた通信機から大隊長であるイングヴァル大佐の怒声が響く。  そりゃ確かに俺は単騎で悪魔と戦って打ち倒し、チタニアの都市を守った。誰もが認める人類最強の英雄だ。  だからこそ殿は俺が務めなければならない。  ここから皆が無事に撤退するにはアレを止めなければいけないからだ。  目の前には二体の巨大な影があった。  悪魔だ。  十数階あるビルほどの、紫色の金属で象られた獅子と牡牛。  それぞれ頭上には同じくけばけばしい紫色の光を放つ紋章を乗っけている。  夜の闇は紫色の光に照らされて出来の悪いホラーハウスのようだった。  あの紋章を真っ二つに斬れれば勝てる。  勝利条件はそれだけだった。  一年前。  この世界は狂っちまった。  突然八つの光の紋章が空に現れ、そこから現れた金属でできたバケモノに人類は虐殺された。  そのバケモノの親玉である七機の悪魔。  そいつらを倒さなければ世界は滅ぶ。  だったら俺は救わなければならない。  戦う術を持たない人間を、ただただ蹂躙されるだけの弱い人間を。  αだとか強いとかそんなの関係ねえ。  俺は英雄にならないといけないからだ。  俺は目の前の悪魔二体を睨みつける。  紫色の獅子、アスモダイ。同じく紫色の鰐、アガレス。  アスモダイのランクは王。アガレスは公爵だ。  俺が過去に倒したのは最高でも公爵クラスだった。アスモダイはそれより強い王ランク。相手にとって不足はない。  アスモダイの吐く毒ガスで動けなくなった隊員をアガレスが巨体で圧し潰し、プレス機にかけたように骨すら砕かれた。  憎い。  憎い憎い憎い。  憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。  俺が救わなくてはいけないのに。俺は英雄でなければならないのに。  目の前で子供のままごとみたいに簡単に行われる殺戮を恨んだ。  手に持った刀が俺の気を纏って赤く輝く。  俺の怒りに呼応して気が強くなる。 『少佐! 二体を相手は無理だ! 帰還せよ! 聞こえるか、少佐!』  耳元でがなり立てる通信機の電源を切った。  勝算? そんなもの見積もるまでもない。  足止めができればいいのだ。  後方の砲兵が撤退しながら悪魔に向けて砲弾を放つ。  命中させてもダメージはないが、動きは止められる。それだけの援護があればいい。  俺は餌にありつく犬のように駆け出した。  崩壊したビルの屋上まで一気に跳躍する。  本来ならば人間にこんな芸当はできないが、とある悪魔曰く、悪魔が現れたことでこの世界にも多少のファンタジーが許容された、らしい。  思念の力をまとって身体能力の向上ができるようになったということだ。  ビルの屋上に着地して下に重く広がる毒ガスから逃れる。  目の前の金属のバケモノと目が合った。  アスモダイ。俺の目の前で人々を大量に殺しまくった悪魔。  今度こそ子供の落書きみたいな紋章をぶった斬ってやると再び跳躍した。  その時だった。  ■■■■■――!  餓死寸前の男が発したようなしゃがれた断末魔が、電源を切ったはずの通信機から大音量で発せられた。 「何、だ……!?」  瞬間、電源を強制的に切られたように体に力が入らなくなって真っ逆さまに落ちていく。  受け身も取れずに地面に叩きつけられ、骨の何本かにヒビが入った。  起きあがろうとするも、まだ体は言うことを聞かない。  あの憎たらしい悪魔をぶっ殺さねえといけねえのに。  その時だった。  ザッと砂利を踏むような足音が聞こえる。 「ざまあねえな、英雄さんよ」  目だけで足音のしたほうを向くと、そこには紫の紋章を頭上に戴いた男が立っていた。  獅子の鬣のような紫色の髪の毛に、流線形の金属の鎧。  アスモダイの人間形態だった。  まずい、人型になった——!  悪魔の巨大な姿は通常形態。人間を蹂躙して皆殺しするのに最適化された形態だ。  ではこの人間形態はというと、対悪魔用。  バケモノ同士で殺し合いをするための効率的な形だった。  悪魔は語った。  ——大きい体だとリソースを無駄に使ってるんですよね。それを体を小さくすることで魔力の密度を上げるんです。悪魔が人型になったら、いくら人類最強とはいえ勝てないと思ってくださーい。情けなくてもすぐに逃げること。ま、逃げられればの話ですけど。  だ、そうだ。  この人型悪魔からどうやって逃げる。  この間合いから、満足に動かせない体で。  嫌な予感がした。  悪魔であるなら真っ向から殺しにくればいい。  それを通信機から妙な音を流して自由を奪うなどという搦め手を使ってきた。  誰かが裏切ったか。  いや、悪魔を殺さないと詰んでいる世界で、悪魔を倒せる俺を殺してどうなる。  そう考えている間にもアスモダイはこちらに近付いてくる。 「どうした、逃げねえと死んじまうぞ〜?」  などと笑いながら一歩、また一歩と歩み寄る。  まるでこちらの体が動かないことを知っているかのような言い草だ。  まさか、アスモダイと誰かが通じていた——?  いや、そんなことは生き残ってから考えればいい。  どうすればこの窮地から逃げられる。  体は依然として動かない。  アスモダイは俺のすぐそばまで来ると、俺の脚を掴んで持ち上げて瓦礫の壁に叩きつけた。 「が、は……っ!」  背中から叩きつけられて息ができなくなる。 「人類最強といっても、所詮は人間か。この程度で苦しそうにしやがってよ」  今度は俺の髪を掴んで顔を上げさせ、俺の顔に唾を吐いた。 「ぐ、うっ……!」  吐く唾も毒なのか、俺の額をじゅうと焼いた。 「サブナックとアロケルは馬鹿で人間を舐め腐ってたからお前ごときが勝てたんだよ。生き汚くて生き残るためなら何でもするのが人間の汚点で美点だってのに、あいつらそれを理解してなかった。だが……」  アスモダイはそこで勿体ぶるように言葉を区切った。 「馬鹿でも同僚は同僚だ。仕事仲間を殺した責任は取ってもらわねえとなぁ?」  言ってアスモダイは俺の頭を地面に叩きつけた。 「単に殺すだけじゃ芸がねえ。それだけならケダモノでもできる。幸運にもお前ら猿どもは優秀でゲスな社会的性質を獲得した生き物だ。死ぬよりつらいって状況には事欠かねえ。いっぱい遊んでやるよ、英雄さん」  アスモダイは俺を足で蹴って仰向けにさせると、俺の右目に手を伸ばした。 「俺だけがお楽しみってのも勿体ねえからな。カメラを回しとこうぜ」  そして俺の右目を抉り取った。 「あ、ああああああああ……っ!」  目を引き抜かれた痛みに思わず声が漏れる。  空っぽになった右目の穴から涙のように生暖かい血が流れ出た。 「片目がなくなった程度で騒ぐんじゃねえよ、もう一個残ってるだろうが。これだから雑魚いんだよ人間は」  言いながらアスモダイは瓦礫の上に俺の右目を置いた。  それから俺の胸倉を掴んで服を引き裂く。分厚い防刃防弾の制服は紙のように容易くちぎれた。 「何、を……!」 「何って、お楽しみだよ。安心しろ、痛くしねえからよぉ」  アスモダイは言うと俺の下衣と下着も引き裂き、急所を露わにした。  何をする気かわからないが、ただ殺されたほうがマシである仕打ちをされることは察知していた。  アスモダイは自身の性器を剥き出しにする。屹立したそれの人間離れした大きさに背筋が冷たくなる。  それだけで何をする気なのかわかった。わかってしまった。 「っ……!」  逃げようと体に力を込めるも、まだ言うことを聞かない。わずかに動く手でじりじりと這っていく。  アスモダイは俺に近寄り、仰向けにさせると足を持ち上げた。あと一歩だ。 「やめっ……」  尻穴を無理にこじ開けて異物が体内に侵入する。その質量に圧迫感が気持ち悪くて吐き気がした。 「どうだ? 俺のチンポは気持ちいいだろ?」  言ってアスモダイは腰を動かし、陰茎をゆるゆると抜き差しする。  抜かれるときに排泄感のような、背骨ごと引き抜かれるような感覚がして、ただひたすらに不快感が募っていく。 「大丈夫だ、すぐに気持ちよくなるからよぉ」  ニヤニヤと笑いながらアスモダイは言う。 「ふ、ざけるな……っ! 抜け……っ!」  徐々に体に力が入るようになったが、体を貫かれているこの状況では抜け出す術もない。  抵抗しようともがく度に体に力が入り、不本意ながらアスモダイのものを締め付けてしまう。 「ぐ、ぅ……っ」 「ここが気持ちいいんだろう? 俺に任せろよ、俺は色欲を司る悪魔なんだ。どこがいいのかくらいすぐわかるさ」  アスモダイは言って、一か所を責め立てるように執拗に陰茎をこすりつけた。 「あ、あぁっ……⁉」  何度かの刺激で、体の中にそれが生じたことがわかった。  まさか。悪魔に犯されて快楽を感じているとでも言うのか。 「お、覚えがいいな。そうだ、お前はここをいじめられると気持ちよくなって、全部どうでもよくなっちまうんだ」 「ん、ぁっ……、んぅ、は、ぁぅ……、ああぁっ! はっ、あぁ……っ!」 声を抑えようとするも、抑えきれない声が漏れる。 「いい声で鳴くなぁ。もっと聞かせてくれよ。人類最強の英雄さんが、どんな声で鳴くのかをよ」 「うる、せぇ……、あ、あっ……!」 「お前のケツマン、よく締まっていいじゃねえか! もうイきそうだぜ! 軍人なんざやめて体売って稼いだらどうだ。今よりも稼げるだろ」  言ってアスモダイは挑発なのか本心なのか、俺を嘲う。 「俺がこのままお前の中にザーメン出したら、面白いことが起きるぜ。お前はザーメンなしで活きられねえ、Ωの体になるんだ」 「な、んだと……っ」  脅しか。それとも真実か。 「あぁ、本当、初めてとは思えねえほど気持ちいいな。もう出しちまうよ、そしたらお前はお終いだ」 「やめろ……!」  アスモダイは一度陰茎を抜き、一気に根元まで貫いた。奥を突かれ、今までにない強烈な快楽に体がびくびくと震える。  それと同時に、熱いものが腹を満たしていくのを感じた。  腹だけではなく体全体に熱さが広がり、目が回る。 「どうだ、生きたまま体を作り変えられる気分は」  言いながらアスモダイはまた陰茎を抜き差しする。  それをまるで嬉しがるみたいに体中に快楽が広がっていく。 「笑えるだろ、人類最強の英雄が売女みてえな体になっちまってよ。生きるためにザーメンが欲しいんですぅってお願いして回るんだよ。そしたら同情で抱いてくれるやつがいるかも知れねえなぁ?」  ケラケラとアスモダイは笑う。 「ほら、もっとザーメンやるよ。飯代わりだもんな」  アスモダイは腰を強く押し付け、また熱いものを腹の中に吐き出す。それに答えるように俺の体はきゅう、とアスモダイのものを締め付けた。  アスモダイは陰茎を引き抜くと、乱暴に俺の体を転がした。 「まだ終わっちゃいねえぜ、英雄さんよ。ここからが本番だ」  そう言うと、アスモダイは俺の右手を取って、がり、と噛みついた。牙が突き立てられ、そこが熱くなる。  次は左手、右足、左足、と続けていった。 「今、お前の四肢に毒を注入した。手足の先からゆっくり腐ってくぜ。俺たちの同僚を殺したんだ。これくらいやらねえとな。早くお仲間が助けに来れば手足は無事かもなぁ? ま、魔族相手に手こずるようじゃお前の元に着くのに時間がかかるかもしれんが」 「て、めぇ……!」  強い酒で酔ったように視界が揺れ、手足に力は入らない。  ただ地を這うしかできない俺の姿を見てアスモダイは下品な笑みを浮かべていた。 「まあ、俺にも慈悲はある。手足の先から腐っていくなんて可哀想だし、何よりお前はザーメンがないと生きられねえんだからよ。ザーメン欲しいよな?」  アスモダイは言うと、宙に手をかざした。  その手のひらから腸のようなバケモノが何匹も湧いてくる。 「俺の可愛いペットちゃんだ。お前のケツマンほじくって何回もイかせてくれるぜ。ザーメンもたっぷり出してくれるぞ。よかったなぁ、飢え死にはつらいもんなぁ?」  手のひらから零れ落ちたバケモノの触手は、ミミズのように這って俺に近寄ってくる。 「やめろ、近寄るな……!」  しかし、俺の手足を絡めとってすぐに身動きできないよう拘束した。  足を大きく開かせ、無防備な尻穴に触手が侵入してくる。 「あ、あああっ……! ああっ、ぁああああああっ……!」  アスモダイのものより太い触手が入り込んだだけで俺の体は絶頂を迎える。体が自分のものじゃなくなったみたいだ。 「気に入ったみてえだな。じゃあな、俺はこれで失礼するぜ。楽しみだな、お前を助けにきたお仲間が、人類最強の英雄がケツマン掘られてみっともなくメスイキしてるのを見る瞬間がよ」  そう言ってアスモダイの周囲に紫の霧が立ち込め、風と共にアスモダイの姿は消えた。 「は、ぁ……っ、あっ、あああっ! んぅっ! は、あぁん……っ!」  ぬちゅぬちゅと触手は俺の体を弄ぶ。  奥を貫かれる度に俺の体は勝手にイく。  一方的に与えられる強制的な快楽に、意識は溶けていった。

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