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第1話 ライライチョウ
シモンは、王国の兵士だ。
王国は小さく、四方が他の国と接していたため、周辺国の事情に巻き込まれやすく、常に不安定だった。
それに、最近はモンスターも凶暴化していて、街の近くに現れたら討伐をすることもある。
シモンは中堅だ。
若手のアマギとバディを組んで指導している。
その日は、二人で街の外を巡回していた。
「シモンさん、今日はやたら森が静かじゃないですか?普段なら鳥の鳴き声とか、小さな動物くらいはいるのに。」
アマギは言った。
アマギは若手ながら、頭が良かったし戦闘のセンスもあった。
顔もカッコよく、なんでわざわざ兵士に志願したのだろう、と思っていた。
「そうだな。確かに妙だ。」
シモンは小型のタブレットで、何か連絡事項が来ていないか確認した。
『ライライチョウの発情期に注意』
とある。
「どういうことですか?」
「よく、鳥って求愛行動で踊ったりするだろ?ライライチョウは人間に対しても踊って、その気にさせるんだよ。」
「はあ。その気になるんですか?鳥の踊りなんか見て。」
「ライライチョウは魔物だから、踊りを見ている間に魔法にかかってしまうらしいんだ。」
「だとして、鳥とはヤれないじゃないですか。なんでそんな意味のないこと。」
「まあ、たまたま出くわしてそうなるんだろうね。魔法にかかれば解除が厄介だから注意しろ、ってことだよ。」
「そうなんですね。まあ熊や虎の出没警告に比べたら平和だな、って感じがします。」
今日のアマギは何だかとげとげしい。
体調でも悪いんだろうか。
――――――――――――――
森を進むと、シモンは、人の服が落ちているのを見つけた。
「アマギ、服が落ちてる。男娼が着る上着だ。辺りをしらべよう。」
少し森の中に入ると、人が倒れている。
シモンは駆け寄った。
アマギもついて行こうとしたら、近くの茂みがかさかさと動いた。
アマギはレーザー銃を取り出し、構えた。
レーザー銃は威力が強く、熊も虎も2発ほど当たればその場はなんとかなる。
少し待っても飛びかかって来る様子が無いので、静かに茂みに近づいて、向こう側を覗いてみた。
小さなライライチョウがいた。
ライライチョウは派手な羽を広げ、クルクル踊っている。
画像で見た時はもっと大きかった。
踊りも、しばらく見てみたが、何の変哲もない。
模様だって、派手ではあるが、おもしろい柄というわけでもない。
これがなんで人間を欲情させるのか、アマギには分からなかった。
近くにカーテン付きの鳥籠が落ちていた。
飼われていたのだろうか?
アマギはライライチョウを捕まえると、鳥籠に入れた。
ライライチョウは暴れるわけでもなく、すぐに鳥籠におさまり、大人しくなった。
一方、シモンは倒れている男の様子をみた。
華奢な少年で、ケガをしている様子はない。
服装やアクセサリーから、貴族に召し抱えられている高級男娼のようだ。
「大丈夫ですか?聞こえますか?」
シモンが体を揺すると、少年は目を覚ました。
肌が綺麗で、化粧もしている。
まるで女のようだ。
「あ……はい……。ここは……?」
「街の西側の森です。貴方はどうしてここに?」
少年は上体を起こした。
「えと……。ライライチョウを捕まえに来たんです。最近、ライライチョウを使った催淫プレイが流行っていて……。さっき一羽見つけて、獲ろうとしたら、魔法をかけられたみたいです。」
そう言いながら、少年はシモンの頬に手を添えて、反対側の頬にキスをした。
「わ!なるほど、早速効いてるんですね!わかりました。」
シモンはそっと少年を引き剥がした。
「すみません。ライライチョウの魔法は、魔法にかかった後、最初に見た人に欲情します。僕は踊りはちょっとしか見てないし、気を失っていたのでもう大丈夫だとは思うのですが……。」
と、言ってるそばからシモンのお尻を触っている。
「な、なるほど。まあ、私がそばにいなきゃいいですね。もう一人兵士がいるんで、そっちが対応しますよ。」
シモンは立ち上がると、向こうから来るアマギの姿が見えた。
「アマギ、そこにいる少年を保護してくれ。」
そう言いながら場を離れ、アマギに近づいた。
アマギはシモンと向かい合うと、手に持っていた鳥籠を地面に放り投げ、目の前のシモンの首に腕を回し、キスをした。
「!!アマギ……!!」
アマギは激しくキスをしてくる。
なまじ力が強くて引き剥がせない。
「ん…っ!はっ、あっ……!」
唇から舌から、舐められ吸われる。
「アマギ……!やめろ……!」
キスが終わる気配が全然しない。
さっきの少年が近寄ってきた。
「あの!僕はもう大丈夫なんで、帰ります。ライライチョウ、捕まえてくれてありがとうございました。そっちのイケメンの兵隊さん……性欲強そうですね……。頑張ってください……。」
ちょっ、ちょっと待て!
こんな状況で置いていくな!
シモンの心の叫びも虚しく、少年はさっさと去って行った。
――――――――――――――
アマギがようやく唇を離した。
アマギの顔を見ると、何らいつもと変わらない。
本当に魔法にかかっているのか?
「アマギ……お前、ライライチョウの魔法にかかって……。」
と、言ってるうちにアマギが掴みかかってきた。
今度は油断せず、アマギの腕を払う。
「ア、アマギ!落ち着け!」
一応言ってみるが、無駄だろう。
ライライチョウの魔法は、かかった側の性欲が尽きるまで続く。
こんな口頭の警告が効くなら苦労しない。
もう少し、ちゃんと二人でライライチョウのことを確認しとけば良かったと悔やまれる。
それに点呼の時間も迫っていた。
点呼に遅れれば、仲間が探しに来る。
ヤッてるところを見られたら最悪だ。
シモンは一か八か賭けてみることにした。
シモンは両腕を下げて、警戒を解いた。
「わかったよ、乱暴なことはしたくない。ほら、こっちにおいで。」
それを見て、アマギもさっきの勢いはなくなり、大人しく寄ってきた。
アマギの腰を抱き、キスをしてやる。
さっきはアマギからの一方的なキスだったが、今度はシモンが攻める。
「ん……、ふぅ……はぁ……。」
アマギは甘い吐息を吐いて、表情はとろんとしている。
いつものクールな雰囲気とは逆で、可愛いと思ってしまった。
きっと男同士なら、受けなんだろう。
そのままゆっくりと、とろけるようなキスを繰り返す。
アマギはシモンに身を委ねて、気持ち良さそうだ。
「……アマギ……もっとしたい気持ちはあるんだけどね、時間だし、もう行かなくちゃ。続きはあとでゆっくりしよう。」
アマギはこくん、と頷いた。
よしよし、とアマギの頭をなでる。
歩き始めると、アマギが手を繋いできた。
乙女なんだな……。
早く魔法よ、解けてくれ……と、シモンは願った。
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