5 / 50

第5話

「うーん……」  帰宅部なのに放課後すぐに帰らず、最近は関連の本ばかり目を通している。  もちろん例の催眠アプリ入りスマホもこっそり持ち歩いているが、やっぱり怖いくらいに何事も起こっていない日々。  しかし登校や下校中に様々な人にアプリをこっそり向けてみるけど、その画面はそれぞれ違っていた。  本当にリラックスしてるっぽい人は規則正しく、緑色に変化していて、イライラしている人は赤く染まっている。自分で試した時はこんな画面じゃなかったのに。  校内で、しかも図書室ではなく自分のクラスの机で分厚い心理学本を読んでいるなんて、催眠に執心している俺を知らぬ者には、さぞやお高く止まって見えることだろう。 「どうした九重? 何か悩み事か?」  聴き慣れた声にびっくりしすぎて、俺は思わず大きな音を立てて本を落とした。  それをわざわざ拾ってくれて、本の内容よりも分野だけを見て首を傾げる端正な顔立ちの彼は、とても嬉しそうに言った。 「心理学……? 九重もこちらの分野に興味があるのか! それなら、勉強は僕が教えられる範囲なら……」 「だ、だだだ大丈夫だよ! 橘花さんも勉強忙しいだろうし……。こんなクラスカースト底辺の俺なんかにも対等に接してくれて、ほ、本当に感謝してるよ」 「そんな風に自分を卑下しないこと。せっかくの長所も見えなくなってしまうぞ」 「長所なんて、俺……短所しかないって……」  根暗の俺は基本的に、クラスメイトや教師に対してもやる気のない返事しかしない。  しかし、たった一人だけ、ほんのわずかな挨拶ですら軽くパニックに陥ってしまうくらいに特別視する人物がいた。

ともだちにシェアしよう!