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第41話 番外編 陽だまりの中で

「彰久、食事か?」  ダイニングキッチンにあらわれた彰久へ雪哉が聞く。 「うん、さすがに何も食べてないから、軽く何かないかと思って」 「そうだろうと思ってサンドイッチがある。持って行って二人で食べるといい」 「さすが母さん! ありがとう」 「その顔は、上手くいったみたいだな」  にっやっとしながら聞かれ、彰久はしっかり頷く。 「勿論だよ。無事番になりました。改めて母さんには感謝するよ、ありがとう」 「ああ。で、今晩はほどほどにな。今日は出かける予定がないからいいが、明日は尚久を送ったあと、お前たちも新婚旅行に行くんだから、蒼の足腰が立たないと困るぞ」  毎度ながら、母の忠告はお節介じみているが、的を得てるのも確かなので彰久は苦笑する。 「母さんの忠告には感謝しますよ。まあ、大丈夫……たぶん」  雪哉にはとても大丈夫とは思えないが、若い彰久の情熱も理解できる。そこで、気になっていたことを質さねばと思いだした。蒼のいる所では聞けない。 「子供のことはどう考えているんだ?」 「うん、自然に任せるよ」 「大丈夫なのか?」  彰久にも母の懸念は分かった。つまり、蒼が出産となると高齢出産になる。加えて、蒼の場合、手術して随分よくはなっているが、丈夫な体質ではない。それは蒼の母の体質を継いでいて、蒼の母は出産が仇になり命を落としたとも言える状況で、蒼もそれで随分と辛い思いをした。  彰久とて、愛する蒼との間に子供が欲しいのは山々だが、蒼の体を考えると望めることではないと思っていた。故に、最初の交わりの時から避妊に気を配った。  しかし、蒼が昨夜は、もう結婚したのだから自然に任せたいと言った。そもそも年齢から言って、妊娠できるかは分からない。出来る確率の方が低いとも言える。だからこそ、もし授かれば嬉しいというのだ。  彰久は迷った。彰久にとってはまだ見ぬ我が子より、蒼の方がはるかに大切だ。そう思うと、蒼を疎んじた西園寺の気持ちも分からなくはない。あの人も蒼の母を、心底愛したのだろう。それが蒼への仕打ちに繋がった。蒼に罪はないのだが……。  が、蒼の気持ちは固かった。『僕は母さんと違って手術のおかげで、ほぼ普通の体力がある。それに四十年近く経って、医学も進んでいる。何よりも周りは医者ばかり。大丈夫だよ』と言う蒼の表情は、凛々しく、反駁できる雰囲気ではなかった。蒼の意思の強さを感じた。  彰久も覚悟を決めた。出来る、出来ないから全てを神に委ねようと。 「そうか……分かった。二人でそう決めたのなら、母さんからは何も言うことはない。確かに医学も進んでいるし、本人含めてこれだけ医者が付いているんだから大丈夫だ」

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