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第40話 最終章 花は咲く

 蒼を抱いたまま彰久は、寝室へ入りベッドに優しくおろした。 「あき君、シャワーを……」 「だめだよ、今あお君凄くいい匂いさせてる。いつもの柔らかな優しい匂いじゃなくて、凄く甘い匂い。発情期の兆候だよね。なのにシャワーなんて浴びたら、いい匂いが消えちゃうよ」  蒼も身体の奥から、熱が発するのは感じていた。既に、発情している。項を噛まれたいと、自分の中のオメガ性が求めている自覚もある。彰久が欲しい。その精を自分の中へと、注ぎ込んで欲しい。  彰久も蒼を求めた。そして、求められているのも分かる。アルファとオメガの融合。今が、番になる時。運命の二人が一つになる時。  彰久は、蒼の着ているものを脱がせる。そして自分も脱いで、一糸まとわぬ姿になる。番になるのに余分なものはいらない。肌と肌を重ね合わせ、魂と魂を合わせる。それが、運命の番。 「あお君、噛むよ」彰久は全神経を集中させて、そして蒼の項を噛んだ。  その瞬間、項を通して、全身に電流が流れたようになり、蒼は体を震わせ、恍惚の境地に至った。  蒼の項から口を離した彰久は、蒼を抱きしめた。運命の人と、魂の番になった。もう決して離さない。できれば、死をも一緒に迎えたい。  彰久は、蒼の全身を愛撫していく。愛しい番の体を、隅々まで知り尽くしたい。段々と、蒼の感じるツボが分かってくる。そこを攻めてやると、蒼の喘ぎが甘くなり、益々彰久の情欲を誘う。 「あっ……あーっああん……あっ、あき……」  あき君があきになった、蒼に理性が残っていない証だ。アルファを求めるオメガ。彰久が、蒼の蕾に触れると、すでにそこはトロトロになっている。彰久を求めて、蜜を溢れさせているのだ。 「あお、ここに僕を欲しいよね」 「うんっ、あーっ……あき……あき、早く来て」  彰久は己の固くなった昂ぶりをそこへと当てる。鋼のようなそれは、吸い込まれるように入っていく。こうして二人は深く繋がった。魂の繋がりから、体の繋がりへと……。 「あお、いいよ……あおの中蕩けるように気持ちいい」 「うん、あっ、あきいい……ああっ、僕もいいっ」  彰久は限界だった。アルファのヒートを起こしていた。オメガに誘発され、オメガを求めるヒート。彰久は動いた。蒼の喘ぎが大きくなる。蒼のオメガの本能も彰久のヒートを待っていた。 「ああっ、あーっああんっ」  蒼の喘ぎは、甘くそして大きくなり、彰久は益々煽られたように、激しく抽挿を続ける。二人とも一心不乱にお互いを求める。蒼は、彰久の精を求める。欲しい、注いで欲しい! もう蒼は貪欲だった。  彰久の精は蒼の中へと迸る。蒼は、体の中でそれを知る。嬉しい! 自分のアルファ、ただ一人の人。 「あお君、大丈夫?」  蒼は、頷きながら彰久に抱きついた。甘えるようなその姿は、アルファに甘えるオメガの自然さを感じる。以前体を重ねた時、恥ずかしがりながら、どこか年上の矜持を感じさせた。だが、今は違う。それも番になった所以かと思うと、心底愛らしいと思う。  彰久は、蒼が可愛く、愛おしい。守るべき、自分のオメガ。当然庇護欲は増す。これが、番をもったアルファの気持ちかと、しみじみと思う。  可愛いからと、抱きしめていると、再び体を繋げたくなる。その後も二人は、何度も繋がった。貪欲にお互いを求めあった。思いを成就させるのに、長い時を待ったのは、二人とも同じ。それを埋めるかのように、何度も繋がった。  こうして、夜も深まった頃、二人は抱き合た姿で眠りについた。結婚し、番になっての初めての夜は、互いの温もりを感じながら、安らかな夜となった。  長い時を掛けて思いを成就させた二人への、ご褒美のような夜は、穏やかに更けていった。  翌朝蒼は、彰久の腕の中で目覚めた。今までとは、世界が変わっていた。安らぎ、全てが満たされていた。愛する人と番になることは、こんなにも満たされるものなのか……。幸せだ、あき君ありがとう……。彰久の寝顔に見とれていると、彰久の瞳が開いたので、ドッキとした。 「あお君、おはよう」  そう言いながら、彰久の手は蒼の体をまさぐる。 「あっ、あき君だめだよ」 「だめ? ……どうして?」 「さすがに、今はもうだめ……夕方母屋に行かないといけないし……」 「今はだめ、いつならいいの?」 「よっ、夜……」 「分かった、夜にね」  彰久は起きて、服を着る。裸でいれば、欲を抑えられない。  蒼も起き上がり、服を身に着けた。もう昼に近い。昨日の披露宴でほんの少し食事して以来、何も口にしていない。しかし、空腹は全く感じていない。幸せでお腹がいっぱいになっているんだろうなあと、取り留めもなく思う。  なんだかこのまま、ずーっとこうしていたい思いになる。この、幸せに満ちた思いに浸っていたかった。  少し風を入れたくて、窓を開けた。爽やかな空気と共に、薔薇の香りが入ってくる。 「いい香りだ! 花もきれいに咲いている」 「ほんとだ、きれいに咲いたね。白薔薇があお君のイメージにぴったりだよ」 「白薔薇が、僕の?」 「そうだよ、赤でも、ピンクでもない、白薔薇があお君なんだよ。だから、ここを建てるのに少し庭を小さくしたんだけど、白薔薇は残したんだ。丁度今がシーズンだしね」  実際、今が旬と咲き誇る白薔薇は、清楚で気品がある。赤薔薇のようなあでやかさはないが、そこがかえって蒼のイメージ通りでもあった。 「狭くなったとは言え、暫くマンション住まいだったから、庭があると僕は嬉しいな」 「うん、そう思ったんだよね。だからね、あお君の特に好きな花は残したから、また咲かせていくといいね。勿論、僕も手伝うからね」  蒼がいない間、花の手入れは彰久がしていた。彰久にとってもこの庭には思入れがある。 「そうだね、季節ごとに色んな花を咲かせよう。そうすれば、香りも楽しめる」 「花の香りがどんなに良くても、僕にはあお君の香りが一番だよ」  そうだった。あの、三歳の出会いの時から、蒼からは良い匂いがした。その匂いが近づけば、すぐに分かった。  今も既に彰久には、薔薇の香りは消え、蒼の香りしか感じられなかった。僕を引き付けてやまないこの香り、僕はこの香りが大好きだ。  彰久は、後ろから蒼を抱きしめる。魅惑的な香りにうっとりする。 「どんな花よりもきれいで、僕を魅了するあお君の香り、大好きだよ。もう決して離さない、愛してるよ」 「僕も……愛してる」  二人を、春の暖かな風が優しく包んだ。それは、長い時を掛けて成就させた愛を祝福するかのようだった。  あとがき 「春風の香」無事完結しました。ここまで読んでくださった皆様ほんとうにありがとうございます。  オメガバースは二作目ですが、本当に難しい……それが正直な思いです。  しかし、オメガバースには、決定的な決まりはなく、かなり自由度が高い点は救いではありました。かなり、自由に解釈しました。その点はご了承ください。  連載中は、話の流れがプロットからずれて悩んだこともありますが、何とか完結できたのは、読んでくださる皆様のおかげです。心から感謝の思いで一杯です。  蒼と彰久二人の結婚でひとまず完結しましたが、機会があれば、二人の幸せな結婚生活も書きたいなと思っています。その時はどうか、読みに来てくださると嬉しいです。  それでは、皆さまの幸せを祈りつつ、心からの感謝を込めて。   梅川 ノン

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