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第1話(蒼の悩み事)

 ここは、都心から少し行った郊外にある南東大学。緑豊かな構内は、至る所に休憩場所がある。校舎は色々な学部に別れ、各々学生寮がついている。  サークル活動も盛んで、ほとんどの学生が何かの部活、サークルに入っている。  その中の1つ、演劇部の部室で1人の青年が悩んでいた。 「うーん…全くイメージに合う奴がいないな…」  彼の名前は栗城蒼、演劇部部長だ。  今、蒼は文化祭に向けての配役で悩んでいた。  物語は決まったが、ヒロインの相手役が思い浮かばない。  演劇部には色んな学生が所属しているが、蒼はピンと来なかった。 「マジで思い浮かばない。演劇部以外で探してみるか? でも、みんな部活やサークルは入ってるし、今から探して見つかるかな? 」  蒼が悩んでいると、外で歓声が聞こえてきた。 「外がうるさいな? そうか、今日はミスコンだったな! グランプリが発表されたのか? 全く面倒臭いイベントだ…」  蒼がこう言うのには訳がある。  この南東大学では、5月にミスコンをする。  そこで決まったミスターとミスが1年間、学年の代表として公務活動をする事になっている。  蒼も1年の時、有無を言わさず部長に選出された。演劇部に入ったばかりの蒼に拒否権はなく渋々参加した。  しかも、その年はミスの子が少なく女装して参加させられたのだ。  見事グランプリに輝き1年間、活動する時は女装する羽目になったのだ。  そのトラウマから、ミスコンが大っ嫌いになり、2年、3年は断固拒否をしてきた蒼。 「ったく、何が楽しんだか! 確かにあの後から、入部希望者は増えたけど…」  蒼が入った当時は、少人数だった演劇部もいまでは、50人はいる。  当時の部長の戦略は正しかったと言わざるを得ない。 「それでも、女装はもうしないからな! 」  ブツブツ文句を言いながら台本を読んでいると、慌ただしい足音がしてきた。 「あの足音は友樹だな? あいつはどうして落ち着きがないんだ? 」  蒼の予想どおり、蒼の高校の時からの友達、柴田友樹が部室に入ってきた。 「蒼! 蒼! いたぞ! いた! いたんだって! 」  慌てて入ってきて、友樹はゼェゼェしながら、その言葉を繰り返す。  蒼はさっぱり分からず、しかめっ面をする。 「友樹、落ち着け。 何がいたんだよ? でっかい蛇か? 」  友樹が蛇が苦手なのを思い出し聞いてみた。 「違うよ! もう俺も21だぜ? 蛇なんて…怖いけど、ここまで騒ぎはしないぞ? 」  怖いのは認めている。  蒼はフンッと鼻を鳴らし首を傾げる。 「じゃあ、何がいたんだよ? 」 「それだよ! それ! それが居たの! 」 「それって? 」 「それはそれだよ! あれかな? あれだよ! 」  それとかあれとか、言いたい事がさっぱり分からない。 「分かったから、とりあえずそこの水でも飲んでから、ゆっくり話せ! 」  フタが開いてないペットボトルの水を友樹に渡した。  友樹は、一気に半分位飲んで、ハァーと息を吐いた。 「悪い悪い、嬉しくてつい興奮して…」  照れた様に頭をかく友樹をチラッと横目で見ながら聞いた。 「で、何がいたんだよ? 」 「そう、それ! 」  友樹は、蒼の手にしている台本を指さした。 「これがどうした? 」 「蒼、その物語のヒロインの相手役探してただろ? 俺、ピッタリの人物見つけたんだよ! 」  友樹の言葉に、蒼は初めて興味のある顔をした。 「本当か? 在校生であまりピンとくる奴はいなかったぞ? 」 「1年だよ、1年! さっきミスコンしてただろ? 1年のミスターのグランプリの奴がピッタリなんだよ! 」  友樹は嬉しそうに話す。 「1年か…1年は余り把握してないからな…でも、本当か? 」 「ああ、俺が保証する! 絶対アイツは向いてるよ! 今回の物語、アラジンだろ? 」 「ああ、全部英語だけどな。ジャスミンは、2年の松前さんがピッタリだと思うけど、アラジン役は、泥棒バージョンと王子バージョンをやりこなせるタイプがいいんだよ。ただの正統派イケメンだと、泥棒役に無理がある。だからと言って、終始泥棒役が似合うと王子バージョンに無理がでる。両方をやれる奴が欲しんだよね」 「そいつは大丈夫だよ! かなりのイケメンだけど、完全に正統派って訳ではなく、毒舌も吐いてたしな」 「そうなのか? 」 「ああ、ミスコン出たくは無かったけど、ある人との約束で渋々出たって言ってたぞ? 」 「そんな事、ミスコンで言ったのか? 1年なのに度胸があるな? 」 「おまえもだろ? 蒼だってミスコンの時、部長に言われてイヤイヤ来ました! って言ってたぞ? 」 「あ、あれは、女装されたからだ! 嫌に決まってるだろ? 男のままなら、普通にやるよ」 「仕方ないだろ? 男の方は裕二がいたし。 それに、おまえがミスターに出てたら、グランプリにはなってないって」  友樹は、蒼の頭をポンポン叩きながら、高さがな~とニヤつく。 「う、うるさい! 身長は今から伸びるかもしれないだろ? 」  165センチで止まった身長に今更ながら期待している。 「いや、無理だろ? しかも顔立ちは可愛らしいときてる。ミスターには程遠いよ」 「うるさい、もうこの話はおしまい! で、そいつは今どこにいるんだ? 」 「ああ、多分グランプリになったから、写真撮影してるんじゃないのか? 終わる前に行こうぜ! 自分の目で確かめて見ろ! 」  友樹に促され、蒼は台本を手に友樹と部室を出て、ミスコンをやっている会場に向かった。

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