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第2話(蒼と湊翔の昔話)

蒼と友樹が、会場に向かうと人だかりが見えてきた。 「なんか、凄い人じゃないか? 」 毎年、賑わうが今年は例年より人が多い気がする。 蒼の時もここまででは無かった。 「ああ、その1年だよ。そいつ4月からかなり注目されてて、女子がキャーキャー言ってたからな」 「そうなのか、知らなかった」 「お前は劇の事しか頭にないからな。容姿端麗、スポーツ万能、医学部所属ときたらモテない訳ないだろ? それに、見たらお前も思い出すかもよ? 」 「はっ? 今でさえ知らないのに? 」 「そいつ、俺たちと同じ高校出身らしいぞ? ほら、いたじゃないか! 俺たちが3年の時に、入学してきた奴がクッソイケメンで女子達が騒いでいただろ? 」 「そんな奴いたか? 」 「お前は、本当に周りに興味がないな? えーと、名前は…平…なんだっけな? 確か…そうだ! 平湊翔だ! 」 友樹の言葉に蒼の足が止まる。 「今なんて言った? 」 「平だよ、平湊翔! ほら、高校の時もキャーキャー言われてたじゃないか? 覚えてないか? 」 覚えて無いわけない。蒼は、その名前を嫌という程覚えていた。 __________________ 高3の卒業式、蒼は後輩に呼び出され体育館裏にいた。 他の生徒はもう帰り、人影はいない。 蒼は、先生や部活の後輩と話していて遅くなった。 帰ろうと思って下駄箱に行ったら、手紙が入っていた。 今どき手紙とは珍しい。 『話したい事があります。良ければ体育館裏に来てください』 蒼は、その綺麗な字に惹かれた。 可愛い可愛いと言われ、彼女が居た時もあったが、友達みたいだと言われ、進展するほどの子は少なかった。 そんな中、この手紙を見て蒼は少し嬉しくなった。 (後輩の子かな? 今どき体育館裏に呼び出すなんて古風だな…) 少し緊張しながら待っていると、足音がした。 (き、来た! 平常心、平常心…) 「って、えっ? 」 蒼は驚き声が出た。 角を曲がって蒼に近づいて来た人物は、女子ではなく男子、しかも凄いイケメンだった。 (えっ? コイツ、確か1年の奴だよな? 友樹がイケメンイケメンって騒いでた…なんでここに? あっ、そうか! コイツも誰かに呼び出されたのか! 被ったのか! どーっすかな? 俺の相手も来てないのに、帰るのも悪いし…コイツに告白する女子が来たら俺も気まずいしな~) 蒼がアレコレ考えてると、そのイケメン1年は蒼に近づいてきて、声をかけた。 「栗城先輩」 その1年が自分の名前を呼んだことに驚いた。 (よく俺の事なんか知ってるな。さて、困った顔をしてる。やっぱりお互い気まづいよな? ここは先輩として、俺が立ち去るか。呼び出してくれた子には悪いが…) 「ああ、悪いな。 俺は大した用事じゃないから帰るよ! 頑張れよ! 」 そう言うと、蒼は1年の横を通り過ぎて帰ろうとした。 すれ違った瞬間、蒼は腕を掴まれた。 「待って下さい! 先輩、どこに行くんですか? 」 腕を掴まれたまま、1年に質問される。 「えっ? どこって…帰るんだよ。お前も、誰かに呼び出されたんだろ? 俺もだけど、相手が来ないし、お前に告白する女子にも悪いだろ? だから、来る前に立ち去ろうと思って…」 蒼の言葉に、1年はため息をついた。 「先輩、何か勘違いしてませんか? 」 「勘違いって? 」 「俺は誰かに呼び出されたんじゃないですよ! 俺が先輩を呼び出したんです」 「えっ? じゃあ、あの手紙はお前が書いたのか? 」 「はい、俺です」 1年の言葉に、蒼は体の力が抜けた。 「なんだよ、告白かと思って緊張したわ! お前が俺に用事があったのか? でも、なんで? 俺と接点なんかないよな? 名前も…なんだっけ? 」 「平湊翔です」 「平君ね、その平君が俺になんの用事? もしかして、演劇部に入りたいとか? 確かに俺が部長やってたから、知りたいのかもしれないけど、もう引退したしな、それなら2年の…」 「好きです」 蒼の話を遮って、平湊翔が言った。 「えっ? 今なんて? 」 「好きです」 「何が? 」 「先輩が」 「えっ? ちょ、ちょっと待って! 」 蒼は、湊翔の言葉に手を前に出しストップと止める。 「待って待って! 平君、今俺を好きって言った? 」 「はい、言いました」 「好きってなんの好き? 」 「恋愛対象としての好きです」 「えっ? 」 平然と答える湊翔に蒼は呆気に取られる。 (待って、どうゆう事だ? このイケメンが俺を好きだと言っている。しかも恋愛対象で? 罰ゲームとかなのかな? ) そう思って蒼が口を開くと 「罰ゲームとかではないですよ」 と、先に答えられた。 「じゃあなんで? 俺は男だぜ? 」 「知ってますよ。男が男を好きになったらいけないんですか? 」 「グッ…いけなくはないが…」 湊翔の言葉に詰まる。 (いけなくはない。そうゆう人もいるだろう。でも、俺は違う! ) 蒼はコホンと咳払いをして、言葉を選びながら答えた。 「もちろん、そうゆう恋愛があるのは知っている。好意を抱いてもらったのは嬉しいが、俺の恋愛対象は女の子だ。だから、君の気持ちには答えられない。ごめんな」 ペコっと頭を下げ断った。 (これでいいだろ、軽蔑せずにちゃんと断った。平君には申し訳ないが…)

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