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第23話(陸の気遣い)
バーの中は女性客で賑わっていた。
《ヤバイ、駅前のSonrisaっていうバーにイケメン店員2人! 》
《まじで目の保養! 》
《絶対見てみて、拡散希望! 》
等の情報がTwitterにあげられそれを見た女の子達で店は満席になっている。
裕二が頑なにに写真拒否をしているので半信半疑の女性客も来たら目がハートになっていた。
運良くカウンターに座れた女の子が陸に話しかけている。
「へー陸君は入ったばかりなんだ! どう? 慣れてきた? 」
「はい、みんな優しいので」
陸はニコニコしながら対応している。裕二に話しかけても素っ気ないので女の子は陸に積極的に話しかけていた。
その様子を見ている裕二は陸の必要性を感じていた。
(コイツがいると愛想笑いしなくても済むんだな。ある意味助かってるのか...。でも、なんでコイツは俺に興味があるんだ? )
最初から話しかけてくる陸に疑問を持っていた。
自分でも分かっているが人と関わるのはそんなに好きではない。親しくならない限り心を開くつもりもなかった。
そんな裕二に積極的に声をかけてくる者は少ない。
話しかけて来ても素っ気ない態度にすぐ離れていく。それなのに陸は気にしてないようでいつも近くにくる。
それが裕二には不思議だった。
(ただ、コイツといると...)
本当は自分の気持ちに勘づいてる陸と距離をおきたかった。それなのに図書室に連れて行く約束をしてしまった事を後悔していた。
「おい、裕二。もう上がっていいぞ」
「えっ? あ、はい」
店長に声をかけられた時にはもう陸も上がっていなかった。
「今日は上の空だな? なんかあったのか? 」
「すいません、大丈夫です」
「まあ、陸が居てくれてるから、お前が話さなくても成り立ってるから良かったけどな。お前、陸に感謝しろよ? 」
「えっ? 」
「お前に話がふられそうになったら陸が話を戻してくれてたぞ? 裕二が話好きじゃないのを知ってるんだな」
全然気づかなかった。そういえば今日はあまり話しかけられていない。
「陸はお前の事が好きなんだな? 」
「店長、そんなんじゃないですよ」
店長の言葉に驚きながらも否定する。
「おい、俺が気づかないとでも思ったのか? 陸の裕二への気遣いはそうゆう事だろ? 」
「店長...」
「まあ干渉する気はないが、余りに無下にするなよ。陸はいい子そうだしな」
じゃあなと裕二の肩をポンポンと叩いた。
「はい、お先です」
裕二が休憩室に入ると、先に上がった陸が椅子に座っていた。
「お疲れ様です」
「ああ、帰らないのか? 」
「先輩と帰りたくて待っていました」
「帰るって、寮は違うだろ? 」
「はい、だから先輩を送りたいので待ってます」
「送るって、別に1人で帰れる」
「知ってます。でも、少しでも一緒に話したいから送りたいんです」
陸の言葉に断っても無理だと思い、諦めて服を着替えた。
裕二の荷物を見た陸はヒョイッと取り上げた。
「お、おい! 」
「先輩、随分重い荷物ですね? 」
「今度提出する課題だよ! 返せ」
「重いから俺が持ちますよ。さっ、帰りましょ」
裕二の言葉を無視して荷物を持ったまま、裕二を促して休憩室を出ていく。
帰り道裕二は陸に疑問をぶつける。
「お前は誰にでもこうなのか? 」
「こうとは? 」
「重い荷物持ったり、強引に誘ったり。普通嫌われるぞ」
「あれ? 先輩、俺が嫌われると心配してくれてるんですか? 」
「そんなんじゃねーよ」
陸のポジティブな考えに呆れた顔になる。そんな裕二を見ながら陸は裕二の方へ少し顔を寄せる。
「な、なんだよ」
思わず仰け反る裕二の耳元で「誰にでもじゃないですよ。自分の好きな人にしかしませんよ」と囁いた。
思わず陸の顔を見た裕二に陸は更に顔を近づけて言った。
「先輩、意味分かってますか? 」
「知るか、アホみたいな事言わず帰るぞ」
冷たく言い放つとスタスタと先を歩いて行く。
「先輩! 待ってください」
裕二にあしらわれながらも一緒に帰ってくれる事が嬉しかった。
裕二の寮につくとちょうど帰ってきた蒼に会った。
「あれ? 裕二、バイト帰りか? 」
「ああ、蒼は? 」
「うん、ちょっと平の所に行っててな」
その言葉に裕二の眉が微かに動いた。
「平の所...部屋に行ってたのか? 」
「まあな、秋山も一緒なのか? 珍しい組み合わせだな? 」
裕二の横にいる陸を不思議そうに見る。
「こんばんは。話したい事もあったので、先輩についてきちゃいました」
「そっか、仲良いんだな。裕二、明日の課題で聞きたい事があるんだけどいいか? 」
「ああ。じゃあ、後で蒼の部屋に行くよ」
「助かる、待ってるな」
そう言って先に寮の中に入って行った。
「後でな。ほら、荷物返せよ」
陸に手を出し促す。
「先輩、嬉しそうですね」
仕方なく荷物を渡しながら、言った。
「何がだよ、お前に関係ないだろ。じゃあな」
荷物を受け取り裕二は寮に入ろうとした。
しかし、中に入るドアを開けて足を止める。陸の方を振り返り「荷物重かったろ。ありがとな」とだけ言うと陸の返事を待たず中へ消えていった。
残された陸は一瞬呆気に取られたが、ハァと息を吐いた。
「全くなんだよ、あの人は! 無意識でやりやがって...」
素っ気ない言葉でも裕二の言葉は陸の胸を鷲掴みにしていた。
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