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第27話(裕二の告白)
「それで…? 」
「その日の夜に両親に話しましたよ。自分の性について、湊翔達が言ったように、両親は受け入れてくれました。俺が幸せなら相手はどちらでも気にしない。1人で悩まれる方が辛いっいて。母には泣かれましたよ」
笑いながら陸は説明した。
「だから、俺は思ったんです。見えない未来に怯えても仕方ない、言ったからこうだ、言わなかったからこうだ、なんて想像して辛くなるなんて勿体ないですよ。それなら話してスッキリして、それから考えればいいって」
「でも…みんながお前の両親みたいな人とは限らない…」
「そうですね、世の中には勘当される人もいるでしょう。でも、俺は自分に偽って生きて欲しくないんです、先輩には…」
そう言うと今度は優しく裕二を抱き締めた。
「秋山…」
「先輩、お母さんと話してみてください。そして、栗城先輩にもちゃんと話してください。告白しろとは言いませんが、自分の気持ちに嘘つかないでください。俺、待ってますんで…」
抱き締められた腕から陸の熱が伝わってくる。最初は自分をからかう目的で近づいて来たと思っていた。
危険な人物だと思って避けていたが、今は少し違う。なんとも言えない感情が裕二の中で湧いてくる。
「お前、待つって、どんだけ自信あるんだよ」
少し尖った口調で話す裕二はいつもの裕二になっていた。陸は嬉しそうにまた抱き締める。
「先輩、俺は先輩が好きです! 全然待ちますよ! アタックし続けます! 覚悟してくださいね」
そう言うと裕二の頬にチュッとキスをした。
「お、お前…どさくさに紛れて…」
頬を手で押さえ睨む。
「あれ? 先輩、赤くなってますか? 」
「なってない! 俺は今日は帰る。蒼達に言っといてくれ! 」
「はい、分かりました。帰ったら連絡してくださいね」
「なんで、俺が…」
グイグイくる陸に呆れながらも手を上げハイハイと帰ることにした。
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「…じ、…うじ、 裕二! 」
強く呼ばれ、ハッとした。
「えっ? 何? 」
「何じゃないわよ! 何回も呼んだのに! 」
母親は、心配そうな顔をしながら続けた。
「どうしたの? なんか変よ? 最近バイトばかりで疲れてるんじゃない? 」
「大丈夫だよ、母さん。ちょっと考え事をしてただけだから」
母親を心配させないように、無理に笑顔を見せる。
「お願いだから、無理しないでね。 裕二に負担ばかりかけて、言える立場じゃないけど…」
「負担なんて、かかってないよ。 バーの店長は優しいし、家庭教師も将来の役に立つから」
「ならいいけど、悩みがあるなら、ちゃんと言ってね。 あなたは、昔から溜め込むタイプだから」
母親に言われて、ドキッとした。態度に出てたのかと、少し反省した。頭の中では、陸に言われた事が繰り返しよぎっている。
言った方がいいと言われたが、ストレートに言う勇気は無かった。
「本当にどうしたの? 大学で嫌な事でもあったの? 」
押し黙る裕二に母親は隣に椅子を持ってきて、座った。
「違うよ、大学は楽しいよ」
「じゃあ、何に悩んでるの? 」
母親に言われ、重い口を開いた。
「…あのさ…もし、もしも、俺が、母さんの思いと違う事したらどうする? 」
「えっ? 私の思い? 例えば? 」
「母さんが、俺にこうして欲しいって思ってる事があって、俺が、それと違うとしたら…」
裕二はそう言うと、そのまま黙って、下を向いてる。
母親は、しばらく裕二を見て、
「私は、裕二がやりたい事、進みたい道を行けばいいと思ってる。あなたが、大学続けて教師なってもいいし、他にやりたい事が見つかれば、大学辞めてもいいし」
それでも顔を上げない裕二を見て、続けて話す。
「恋愛でもそうよ? あなたが好きになった人なら、女性でも男性でも、凄い年上でも気にしないわよ。もちろん下すぎるのは犯罪だから、止めると思うけど」
母親の言葉に驚いた顔をした。
母親は更に続けた。
「裕二、裕二の人生なのよ。私のじゃないわ、あなたが、決めた事なら、私は応援するだけよ」
最後は笑って言った。
「母さん…なんで? 」
母親が、あえて恋愛の話をしたような気がして、裕二は問いかけた。
「あのね、何年あなたの母親やってると思ってるの? 息子の恋愛対象がどちらかなんて、分かるに決まってるでしょ? 」
堂々と言われて、空いた口が塞がらない。今まで、絶対秘密にと頑なにバレない様にしていたのに、まさか、見透かされていたなんて。
裕二が、動揺を隠せずにいた時、突然リビングのドアが空いて、妹の麻央が入ってきた。
「やっぱり!! 」
「麻央!」
驚いて振り返った裕二は、麻央の言葉で益々驚いた。
「全部聞いてたよ、お兄ちゃん、やっぱり男の人が好きなんだね! 」
「お前…」
「早く言えばいいのにーって思ってたんだ! なのにお兄ちゃん、1人で悩んでるみたいで、ママと心配してたのよ? 今どき、同性が好きなんて、よくある事じゃん! 」
あっけらかんと言う麻央に、肩の力が抜ける。今まで、ひたすら悩んでたのが、馬鹿らしくなってきて、笑いが込み上げてくる。
「ハッ…ハハ、マジか、俺だけ真剣に…」
笑いだした裕二に、母親は肩に手を置きながら、
「裕二、あなたから言い出してくれるのを待っていたのよ。どうも、あなたはいけない事と考えてたみたいだから。でも、言い出したって事は気持ちの変化があったのね? 」
「母さん…、本当に凄いな」
母親というのは、本当に子供の事をよく見ている。裕二は、自分1人でウダウダ考えてるのが、馬鹿らしく感じた。
(秋山の言った通りだな…)
「お兄ちゃん、気持ちの変化って、あの人でしょ? 最近よくLINEしてくる秋山って人! その人、お兄ちゃんの恋人? 」
「グフッ! 」
頭で、ちょうど考えていた奴の名前が出てきてむせる。
「やっぱり! 」
「ち、違う! あいつはそんなんじゃ…」
「だって、お兄ちゃん、余り人とLINEしないじゃん! 私にも1行だけだし。でも、その人とはよくやり取りしてるじゃん? 」
「そ、それは、あいつがひたすら質問で送ってくるから…」
「あー、じゃあ、その秋山って人がお兄ちゃんを大好きなんだね! 」
更に追い討ちをかけられ、返す言葉もない。
「こら麻央、裕二を困らせないの? そのうち、紹介してくれるわよ。ほら、裕二も、お風呂入っちゃいなさい。麻央は勉強、勉強」
いつも通りの母親に、麻央は、絶対付き合ったら教えてよ、と自分の部屋に戻って行く。
「全く、あの子は…」
「母さん…」
「ん? 」
「ありがとう…」
「どういたしまして」
ニッコリ笑う母親に、心の重しが取れた気がした。
「じゃあ、風呂入ってくる」
そう言って、風呂に向かう裕二の足取りは軽かった。
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