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第26話(陸の昔話)
自分の腕の中で大人しくなった裕二に陸は優しく語りかけた。
「先輩、先輩がそう思ってるのは何でですか? お願いですから、俺に教えて下さい。一緒に考えたいんです」
裕二は陸の問いかけに少し黙っていたが、ポツリポツリと話し出した。
「うちは父さんが居ない。俺がしっかりして、母さんと妹を支えなきゃいけない。母さんだけの給料だけじゃ妹を大学に行かせられない。でもそこまで体力がある方じゃない。父さんの事で参ってもいる。そんな母さんに自分の事なんて言えるわけない…。特に周りにバレて他人から聞かされたらきっと倒れるだろう…。それに母さんは俺の将来を楽しみにしている。立派な教師になって、素敵な女性と結婚して…子供を作って…」
そこまで話して裕二の目から涙が溢れ出した。今まで頑なに守り続けてきた秘密…。絶対バレてはいけない秘密、どんなに好きな相手がいても見つめるだけで、口に出す事はなかった。
それなのに、陸に話してしまった。一度出してしまうと溜まっていた言葉がとめどなく溢れてくる。
「俺は、母さんを悲しませたくない…。父さんが死んでから、死にものぐるいで働いて俺達を育ててくれた。過労で倒れてもすぐ仕事に復帰した。そんな母さんに俺の恋愛対象が男なんて…言える訳がない…。お願いだ、もう俺の事はほっといてくれ。お前といると全て見透かされてる気がして居心地が悪い…」
涙を流しながら陸にお願いする。カッコ悪くてもバカでもなんでもいい。自分の事を黙ってほっといてくれたら、それだけで裕二は良かった。
「先輩、それは無理ですよ。何度も言いますが、俺は先輩が好きです。好きな人が1人で苦しんでる、それをほっとけますか? 俺には無理です。それに先輩は勘違いしてると思いますよ」
「勘違い…? 」
「はい。先輩、よく聞いてください」
クルッと裕二の向きを自分の方に向け、裕二の涙をふいてあげる。
「先輩はお母さんを苦しませたくないって言いますが、親って自分が辛いより子供が苦しんでる方が辛いんですよ? 」
「…なんでそんな事わかるんだ? 」
「俺がそうだったからです」
陸の言葉に裕二は驚いた様に陸の顔をまじまじと見つめた。
「それって…? 」
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「なあ、陸って山崎の事好きなのか? 」
中学3年の時、突如クラスメートに言われた。
「はぁ? なんでだよ? 」
「だって、お前最近よく遊んでるだら? 距離も近いし、お前もしかしてホモなのか? 」
「ち、ちげーわ! やめろよ! 」
「慌てて否定するとこが怪しいよな? なあ? 」
「ああ、確かに」
他のクラスメートもからかうように笑う。
「そんなんじゃねーよ! 」
「またまた~、でもそれなら大変だな? お前一人っ子だろ? 親父は病院の院長、跡取り息子が実は男が好きだなんて、両親悲しむぞ~」
「そうだよな、俺好きな子が出来たって連れてきたら男なんてな? 」
「ああ、確かに! 」
クラスメートは好きかって言ってゲラゲラ笑っていた。
少し考えていた事を言われ、陸の心にその言葉はグサッと刺さった。
その時の陸はまだ自分の気持ちが分からずモヤモヤしていた。
今までは女子しか好きにならなかったのにある男子が気になっていた。
しかし、クラスメートにからかわれると自分の気持ちがおかしいんじゃないかと怖くなった。
同性を好きになる、人を好きになるのは同じなのに同性だけで、こうも好奇の目に晒される。
それならこの気持ちはひっそりと葬り去る方がいいと思った。
その時、怒鳴る声が聞こえた。
「いいかげんにしろ! うるせーぞ、お前ら! 」
隣のクラスの湊翔だ。用事があって陸に会いに来たところだった。
湊翔はクラスメートの胸ぐらを掴み、凄みの声で脅す。
「くだらない事で人をからかうな! 男でも女でも好きになったら一緒だろ! お前らの脳みそはクソなのか? 」
「く、苦しい…ちょ、ちょっとからかっただけだろ? 」
湊翔の怒りにクラスメートは怯えてる。中学の頃から背も高く運動神経抜群の湊翔に殴られたら一溜りもない。
「くだらない事で、からかうな! モテない奴の僻みに聞こえるぞ? それに、陸の両親はそんな人達じゃない! 自分の息子が幸せなら相手はどちらでもいいって言う人達だ! 」
そう言うと、胸ぐらを掴んでいた手を離し放り投げた。
「そうよ、あなた達だってこれからどちらを好きになるかなんて分からないじゃない! それなのに偉そうに! サイテーな人達ね! 」
一緒に来ていた佳奈も参戦してクラスメートを非難した。
可愛い佳奈に言われた事がショックなクラスメート達は小さい声で謝って教室を出ていった。
「湊翔…佳奈…」
陸は一連の流れに驚いて言葉も出なかった。 この2人は自分の話も聞いても、全く動じず怒ってくれた。それがとても嬉しかった。
自分の両親も同じだ。自分1人で勝手に迷惑がかかる、ダメだ、良くないと思っていたけど、話してもないのにダメだなんて自分で決めつけていた。
「陸、お前は間違ってないからな」
「そうよ! 変な奴の事はほっときなさい。陸が誰を好きでも私達は友達よ」
湊翔と佳奈の言葉に柄にもなく目頭が熱くなる。
「ありがとう、お陰で勇気が出たわ。ちゃんと親に話してみるよ」
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