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第25話(陸の行動)
「えっ? そ、それは…」
昨日の事を言っていいのか分からずどもる。
それを見た湊翔の表情が益々固くなる。蒼の腕を取り、再度追求してきた。
「痛! なんなんだよ? 大したことねーよ! 裕二がちょっとふざけてやっただけだ! 離せよ! 」
全く…と手を擦りながら言い放つ。
その言葉に湊翔は一瞬呆気に取られたが、次の瞬間、踵を返して部室を出て行こうとした。
「待て、湊翔! 」
陸が湊翔の手を取り止める。
「今から練習だろ? お前が抜けるとマズイって、落ち着け。俺が行ってくるよ、話したい事もあるし」
陸の言葉に少し悩んだが、任せる事にした。
湊翔の力が抜けると、陸は肩をポンポンと叩き、大丈夫だから任せろと落ち着かせた。
「栗城先輩、俺が種谷先輩探して来るので、先に始めてて下さい」
「陸、1人で大丈夫? 」
「ああ、大丈夫だよ。佳奈は湊翔を見ていてくれ」
「分かったわ」
蒼はこの3人のやり取りがイマイチ理解出来てないが、湊翔の怒りが落ち着いたならと頷いて陸を送り出した。
ザワザワと様子を見守っていた部員達に手を叩き、友樹が落ち着かせる。
「はい、みんな集中! 痴話喧嘩は気にせず、劇の稽古始めるぞ! 各々配置についてくれ! 」
部員たちは友樹の言葉に従い、それぞれバラけて配置についていく。
「友樹、すまないな」
「いいって、後で平と話せよ? アイツの怒ってるのはただのヤキモチだけど、理由を聞いてやれ」
「ああ…」
蒼はなぜここまで湊翔が裕二にヤキモチを焼くのかは分からないが、改めてちゃんと説明しようと思った。
(それにしても…裕二にキスマークつけられても何も感じないのに、平にはなんで…。俺、やっぱり平の事結構気になってきてるのか? …いや、違う! そんなんじゃない! 俺が男を好きになる訳… )
頭に浮かぶ考えを払拭するかのようにブルブルと頭を振る。
「おい、何やってんだ? 早く進めろよ」
「あ、ああ…。えっと、まずは通しで最初からやってみよう! セリフを覚えてない人は台本片手で大丈夫だ! 」
『はい!! 』
(今は練習に集中だ! )
気持ちを切り替え、テキパキと指示を出していく。
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「先輩! 待って下さい! 先輩って! 」
陸は裕二を探しに教育学部に行った。色々な教室を覗いてようやく見つけたのに、陸を見た瞬間裕二は走って行ってしまった。
「クソッ! 全然止まる気ないな、それなら…」
陸は本気を出して裕二を追いかけた。高校時代、陸上部にいた陸はが本気を出せばだいたいの人間は捕まってしまう。
案の定、裕二も陸に捕まり壁に追いやられる。
「ハア…ハア…。ようやく捕まえた! 」
両手を取り壁に押し付ける。
「は、離せよ! 」
「嫌ですよ。離したらまた逃げるじゃないですか? 先輩に話があるんです」
「お前と話す事なんてねーよ! 」
腕に力を入れ何とか陸の手をどかそうとするが、しっかり押さえられビクともしない。
「先輩、俺が何を話すか分かってるんですよね? だから逃げたんでしょ? 」
「知らねーよ」
フイッと横を向き陸から視線を逸らす。ジッと見つめてくる陸の目線に裕二は耐えられ無かった。
「先輩、昨日栗城先輩にキスマークつけたんですか? どうしてそんな事したんですか? 」
陸の問いかけにも横を向いたまま無視をしている。
「俺は知ってますよ。先輩がなぜそんな事をしたか…。先輩はヤキモチを焼いたんです、湊翔に。だから、カッとなって自分もつけたんでしょ? 」
裕二は横を向いたまま反応がない。陸はそのまま話し続けた。
「先輩は栗城先輩が好きなんでしょ? 友達としてじゃなくて、恋愛として。だから腹が立って栗城先輩にキスマークをつけた。違いますか? 」
「違う…」
小さい声で裕二が反論してきた。
「違わないですよ。だって、先輩は後悔してますよね? 違うなら冗談だと栗城先輩に言えばいいだけです。でも出来ない、自分にやましい事があるから。だから栗城先輩を避けていた。でも先輩、このままでいいと思いますか? 栗城先輩も意味が分からず、あなたに避けられて傷ついてますよ? 自分のせいで怒らせたって」
「蒼が? 」
陸の言葉に初めて顔を上げた。裕二の顔には後悔と不安が入り交じった表情をしている。
「ええ、自分が悪いと思ってます。先輩、好きな相手にそう思わせていいんですか? 自分の気持ちをちゃんと伝えないと栗城先輩にも迷惑が…」
そこまで話した時裕二が力いっぱい陸の手を振りほどいた。
ドンッと陸を突き飛ばし、睨みながら裕二は声を荒らげた。
「うるさい! お前に何がわかる! 平やお前みたいに簡単に好き好き言える人間ばかりじゃないんだ! 」
「なんでですか? 相手が男だから? それがなんだって言うんです? 好きになったら男も女も関係ないでしょ? 」
「そんな風に考えれる人間なんてひと握りなんだよ! 普通は周りにバレたとか親になんて言われるかとか考えるんだよ! 」
そう言うと踵を返し走ろうとしたが、すかさず後ろから陸に抱き締められる。
「離せよ! 」
陸の腕の中で暴れるが、陸は更に力を入れ抱き締める。
「嫌ですよ。先輩、落ち着いて。俺の話を聞いてください」
どんなに力を入れても振り解けない。裕二は息を吐き、陸の腕の中で大人しくなった。
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