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第7話 喉オナホ彼女希望①

 8月になった。  ミキは相変わらずカラダを売る生活を送っていた。  (すさ)んだ暮らしのなか、たったひとつの楽しみは、隣の三井田とランチをすること。  大学でラグビー部に入っている三井田は、部活の練習と運送業のアルバイトで家を空けることが多かった。  昼間いつもひとりで家にいるミキは、三井田が帰ってくると飛び起きて、三井田の部屋側の壁に近づいた。 (みいたん……帰ってきたんだ)  お昼食べてきたかなぁ、また一緒にフレッシュネスバーガーに行こうって誘ってみようかなぁ……。  そんなことを、ぼろい卓袱台としけたせんべい布団しかない、殺風景な部屋で考える。  そうしているうちに、ピンポーン、とドアフォンが鳴り、三井田が訪ねてくる。 「おかえり、みいたぁ~ん♡」  しっぽを振る小犬のように無邪気に駆け寄るミキ。 「もう部活終わったの?」 「……ああ」  抱きついてきたミキに軽く頬を染めた三井田は、 「――もうお昼食べたの?」  と聞く。 「ううん。ひとりだとなんだかさみしくて……」 「またそんな――ちゃんと食べないと大きくなれないぞ。線路の向こう側にボリュームのありそうな定食屋見つけたから。一緒に食べに行こう」    三井田が連れていってくれたのは、老夫婦が経営している、(ひな)びた町中華だった。  ミキはオムライス、三井田は生姜焼き定食を注文した。 「んっ、おいしっ♡」  チェック柄のワンピースにポニーテール、という昭和の女の子のようないでたちでオムライスをほおばるミキを、三井田は目を細めて見守る。  ……ミキが夜の商売をしていること、コンビニのおにぎりやサンドイッチやファストフードしか食べていないことを知った三井田は、自然にミキの世話を焼くようになった。  大学で法学の勉強をしている三井田の将来の夢は、弁護士になることだった。  弁護士になって、社会の底辺で苦しんでいる人たちの力になりたい。  優秀な学級委員タイプの三井田は、ふわふわした風船のようにあぶなっかしいミキをほうっておくことができなかった……。  帰り道。 「あっ、見て見てぇっ」  線路近くの商店街。  ファンシーなアクセサリーショップの前でミキは足をとめた。  ピアスやカチューシャ、ヘアアクセサリーなどが木棚に並べられた小さな店内。 「うわぁこれ、すごく可愛い……」   小さなひまわりがふたつ並んだヘアクリップをミキは手にする。  こめかみにちょこん、とクリップをのせ、 「どう? 似合う? ――かなぁ……?」  上目遣いで三井田を見る。  瞬間、三井田は、股間がズキッと疼くのを感じた。 「う、うん……いいんじゃないかな――」 「ホント? だったら買っちゃおうかなぁ」 「あ――も、もしよかったら買ってあげるよ」 「え……?」 「バイト代入ったから。ミキちゃんがほしいなら買ってあげる」  三井田は、レジで会計した。 「はい」  可愛い花柄の紙袋に入った、800円の、ひまわりのヘアクリップ。 「ありがとう……」  三井田から受け取ったそれをミキは、胸にぎゅっと押し当て、花のようにほほえんだ。      ――以来ミキは、ウリのバイトのとき以外はいつも、そのクリップをして過ごした。  前髪を斜め留めしておでこを出し、ツインテールの髪をクルクル巻きにする。  いつ三井田が来るかわからないから、寝ているとき以外はずっと、部屋でも化粧をしたまま。  そんなころ、三井田が部活の合宿で一週間家を空けることになった。  そのあいだ、実家からの荷物が届くことになったので替わりに受け取ってほしいと頼まれていたミキは、三井田が帰ってきた日、荷物を持って三井田を訪ねた。 「……みいたん?」  部屋のドアをノックする。  返事がない。  疲れて寝てるのかなと思い、引き返そうとした。  そのとき、部屋のなかから、「……アッ! うっ、うぅっ……ンッ!」という唸り声がした。 「……みいたん?」  玄関のドアノブを回すと、カチャッとドアが開いた。  コンクリートの三和土(たたき)にそっと足を踏み入れる。  ミキの部屋と同じ間取りのワンルーム。  厚みのあるマットレス。  デスク上のノートパソコンとタブレット。  一口コンロのガス台に置かれた片手鍋。  畳の上に座った三井田は、窓のほうを向いて、なにかしていた。  それがオナニーだとわかったのは、スマホから、おんなの嬌声がアンアンけたたましく響いていたからだ。 (……ウソ――)  持っていた荷物を床に落とす。   その音に、はっと振り返った三井田は、 「ミ……ミキちゃん……?」  と目を丸くした。  ずり下げたジーンズから飛び出た三井田のペニスは、いまにも射精()てしまいそうなほど、ギンギンに反り返っていた。

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