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第1話 人間界へようこそ

 真っ暗なトンネルを灯りもなしに歩いていた。  いつから?どうやって、どうしてここに?思考を巡らせど、頭の中は空洞。手足は無重力、ただ一つ感じるのは首に掛かる重み。  ──ああ、僕は……事切れたんだ。  内気な僕は小中高すべての人間関係を失敗した、およそ10年間。小さな世界で隅に追いやられ、紙くず、暴言、嫌悪を向けられる。  何かをしでかした記憶はない、ただ……上手に喋れなかっただけ。  振り返ってもトンネルの暗闇は続いていた、後には戻れない。戻る場所もない。  きっと僕の体も、もう無くなっている。自分の名前も思い出せない。 「──悲しいねえ、そんな一生」  前方から、抑揚のない声がして音をたどると少年がいた。黄色いローブに、黒いシャツとズボン、そしてブーツも真っ黒だ。ただ一つ黒くないのは白髪と、黄金に輝く瞳。  小さな口を無理にあげて、ニヤリと笑っている。 「……あ、あなたには、何も関係ないっ……!僕の人生なんて……」  嘲笑われていると思った僕は、か細い声で抗議した。  気弱な僕の威嚇など、彼には届かないらしい。飄々と話し続けた。 「確かに関係ないね。キミの人生はキミのものだ、どう終わらせようとキミの勝手だ」 「だけどもねえ、ボクとしては困るんだよ。こんな所で迷われてしまっては」 「……何を言ってるんですか」  意味が分からず、ぼんやりと彼を眺めていると、突然彼は手を差し出した。  大きく広げられた手の中にまばゆい光が差し、ほんの一瞬目を逸らした間に、本が浮かび上がっていた。  分厚いが内容が詰め込めればそれで良いのか、何の装飾もタイトルもない本を、彼はペラペラとめくっていく。 「ほら、今日の乗客リスト。キミは載ってない」 「乗客……リスト……?」 「まだ分からないのかな、キミは地に落ちるには早すぎるんだよ」  ここは、死後の世界に行く道のりだと説明された。 「そっか……そうなんだ。おかしいな、今すぐにでも消えてしまいたいはずなのに……どうして僕はここに留まっているんですか」 「その問いは、キミが答えを握ってるはずだよ」  「でも僕はもう苦しみたくない、早く連れてって下さい」と重い頭を無理に下げようとすると、彼に頭を押し戻された。 「それ以上、首を絞める必要はないんじゃない? ここは無の空間だ、こんなに意識も感情もあるなんて滅多にない事だ」 ──戻ろうと思えば、戻れるんだよ──  その一言と、強く額を押される感触に、徐々にゆっくりとぼやけた現実が見えかける。  何もない和室、誰もいない家。今にも切れそうなロープの音。 一人ぼっちは嫌だ!もう一人ぼっちは嫌だ!  ジタバタ暴れる僕の手は彼のローブを強く引っ張り、2人同時に和室の床に尻もちをついた。 「う、ううう……」 「いたた……キミねえ、これ以上困り事を増やされると……って!?」 「ここって……人間界……じゃ……ないよ、ね??」

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