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第12話 契約破棄

 終業時間、席を立ったらずっと無視していたクラスメイト達が近づこうとしてきたが、窓から夕陽が眩しく光った。目が眩んだ生徒達は、しばらくして何をしようとしていたか忘れてしまったようだった。  ──アヌス、君はいつからそんな心配性になってしまったのかな。僕はまだ頼りないんだろうか、守ろうとしてくれたアヌスに少し悲しさを感じた。 「アヌス、いるんでしょう? もう周りには誰もいないって、姿現してよ」 「……分からないだろ、またどこで何が起こるか……」 「アヌス、ずっと見てたんでしょう。僕には優しい先生もいるんだよ。だから安心して?」  最初の頃とは違い、アヌスと僕の立場が逆転してしまった事に戸惑いながらも、姿を現してくれたアヌスに笑いかけた。  放課後の人通りの少ない帰り道は沈黙の時間を強く意識させるもんだから、思い出話をしてみた。 「あれは……転入初日の時だったっけ、僕が1人で学校行くの怖いって嘆いてたら『一人ぼっちになりたくないなら、一人にならなきゃ出来ないことはあるんだよ』って言ってたよね」 「そう、だったねえ……」  いざ話を振ってみても彼の悲しみは晴れないようで、つい僕は「まだ、そんなに頼りないかな」と歩みを止め、握り拳に力を入れた。 「僕は一人ぼっちじゃないって気づかせてくれたのはアヌスだ、僕は君のお陰で少しずつだけど成長してるんだよ。君も成長したねって言ったじゃないか」 「心配してくれるのは嬉しいけど、僕は僕自身の力で頑張りたいんだ」  アヌスのほうを振り向き、両手を肩に置いて「僕を信じて欲しい」と黄金の瞳に負けまいと、力強く見つめて言った。  最近は涙腺が緩いらしい涙目のアヌスは「それはもう……契約破棄ってこと?」と唇を噛みしめた。 「最初の契約を思い出してくれ、ボクは言ったはずだ。よわよわメンタルのキミが、もう二度と間違って冥府に来ないように、強くするための一時的な友情契約だって」 「今のキミが成長しきってるのは分かってる、だけどこの契約を破棄したら……」 「──ボクは、もう”あっち“に帰らなきゃいけない──」  そう言いながら全身の力が抜けたのか、ぺたんと地面に座り込むアヌスは、僕と同じように……まだ一緒にいたいと思ってくれてるみたいだ。  ──最初は契約上の友人だったとしても、この数ヶ月で育まれた友情は嘘じゃない。  表情が固かった彼の笑顔も泣き顔も、好きな食べ物だって知れたことが、アヌス自身も変わってくれた事が僕は嬉しいんだ──。  彼に目線を合わせるようにしゃがみ、「僕もまだ君と一緒にいたいから、何か策を練ろうよ」と立ち上がらせて、そのまま手を繋ぎながら家に帰った。

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