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第11話 君がいるから

 ──数時間後、母さんに晩ご飯だと呼ばれて自室を出たが、すぐ戻ってきた。元気のないアヌスが心配だったのもあるし、彼にハンバーグを食べて欲しかったから。 「これ……が、ハンバーグ……うまい」  さっきまで泣いてたのが嘘のように、今度はハンバーグで舌鼓して目を輝かせる。その様子を頬杖をついて見続けた。  僕の視線に気づいたアヌスは「友樹も食べたいよねえ? あと一口しかないけど……いる?」とフォークを差し出す。  本当は全部食べ尽くしたいのは彼の目を見れば分かる、だけど彼にフォークを向けられて顔を近づけられて、胸の鼓動が煩くなった。  ──これって、あーんっていうやつ? そんなの子供の頃に母さんにしかして貰ってない。  でも……こういうのって、友達同士……じゃ、しないよね?  なんて悶々としているとアヌスは返答が待ちきれず、食べ切ってしまった。この胃袋魔人死神め! と、心の中で毒づくだけで済ませておく。  これ以上、変な感じになりたくなかったから──。  翌朝、アヌスはずっと何かを考えていて会話もせずにジョギングを終え、制服に袖を通した途端「学校着いて行くよ」と壁に背を預けながら呟いた。  僕は淡々と準備をしながら「大丈夫だよ」と、心配をかけまいと振り向かずに部屋を去った。  通学中何も起きなかった事に一安心するも、教室に足を踏み入れた途端、視線が僕に集中した。不気味がるような、汚いものでも見るような、明らかに嫌悪感を示して距離をとる。  アヌスの言う通りになってしまったなと、案外冷静に考えている自分に少し戸惑いながら着席したら、隣の優ちゃんは少し気まずそうに机の距離を空ける。  どんな優等生でも、いじめを庇う事によってのターゲット変更が怖いのだ。現に彼女は罪悪感から泣きそうな顔を、両手で隠した。  ──どこに行っても人は一緒なんだな。ただ僕はアヌスと楽しく過ごしただけ、誰も傷つけてなんかいないのに、な。  少し不貞腐れながら頬杖をつき、窓から広がる世界を見た。  青空は澄み渡って、校庭の木が風と踊ってる。遠くを見れば住宅街も、アヌスとの思い出がいっぱいの河川敷も見えるんだ。 もっと遠くに行けばあの海も、もっともっと遠くに行けば来年行こうと約束した山も見えるはず。  世界はこんなにも広いんだと微笑めば、ヒソヒソ話が大きくなる。そんなに僕を見るぐらいなら、外を見てるほうがよっぽど有意義な時間を過ごせるだろうに。  授業中、グループワークをするようになんて言われれば避けられて、教師とやる事になったが担任は優しく指導してくれた。  目に見える暴力や分かりやすいイジメではないから、担任も対応に困っている様子。  僕は担任に「学校の外には友達が待ってるから平気ですよ」と笑ってみせた。  前の学校の担任とは違い、僕をよく見てくれていた担任は「ははは、そうか! 最初は同級生と打ち解けるのが大変そうだったが、高城くんもたくさん努力してるんだな」と髪型が崩れるぐらいわしゃわしゃ撫でられた。 「辛い時は辛いと言っても良いんだぞ。実はね、学生時代の私も体が小さくてよくいじめられてたんだ」 「でもね、体も心もいつかは成長するものなんだ。今のみんなの心も成長するさ、いや……私が成長を促してみせるよ」  優しく励ましてくれた担任は、僕にグッドサインを送り、「いつでも私に任せなさい!」と大きな体を揺らして笑っていた。  ──狭い世界にいたって理解してくれる人はいるんだなと、僕はまた人生を勉強できたみたいで嬉しかった。

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