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第10話 僕はもう1人じゃない

 夏休み終盤、明日からアヌスと離ればなれになる現実から目を背くように、一緒にゲームセンターへと訪れた。  昔住んでた町ではいじめっ子達の溜まり場で、恐ろしい所だとトラウマになっていたが、今はアヌスがいる。それだけで平常心を保てた。 「げーむせんたー? ねえ。ゲームのやりすぎで冥府に来た奴はいたけど、そんなにいいものなの?」 「はは、その言葉まるでお爺ちゃんみたいだよ」 「ボクは何千年も生きてるから、お爺ちゃんどころではないけどねえ」  「じゃあスーパーお爺ちゃんだ!」と軽く笑い合いながら、何十種類もある大きなゲームセンターを、一つずつ楽しむ事にした。  肩慣らしにリズムゲームを一緒にやってみると、アヌスは音痴のようで……ミスでフルコンボだ。  踊るタイプのリズムゲームも下手くそで、途中で魔法を使い低空飛行限定リズムゲームに改良し、誰も超えられないに決まってるハイスコアを叩き出した。  「もうズルは禁止!」だと伝えながらカーレースゲームを始めたら、「臨場感がハンパない!」と満面の笑みで子供のように夢中になって遊んだ。  いくら何種類ものコースがあるとしても、もう何十回も同じ画面を見てたら流石に飽きてきた。そして外は並びだしている。  「アヌス! 並んでるよ、早く代わってあげなきゃ」そう言ってアヌスの腕を掴み引きずり出すと、見知った顔がいた。 「あれ、高城じゃん! 高城ってこのゲーム好きだったんだな、実は俺もこのゲームのファンでさ」  クラスメイトの男子である佐藤くんは親切に話しかけてくれたが、僕の隣に誰もいない事を見て、目を見開く。 「え、それって2人用じゃ……」 「あ……あはは、僕このゲーム初めてだからさ、何も分からなくて1人で遊んでたんだ! 待たせちゃってごめんね!」 「いやでも2人一緒じゃないと起動しないはずじゃ」「誰かと一緒にいる声聞こえたけど……山田、お前も聞いたよな?」「え、なに幽霊? こわ……」  後ろから向けられる疑念の声を無視して、アヌスと一緒に小走りで去る。アヌスはずっと、申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。 「悪かった!! ボクが油断したばかりに……」 「そんな、土下座なんてアヌスらしくないよ? 僕だって楽しかったしさ! アヌス、カーレース好きなんだね、また行こうよ。そしてまたあそ……」 「楽しかったよ、この1ヶ月の間は。何千年も生きた中で初めて……友達と遊んで、夢中に遊んで……自分の仕事を忘れてた」  自室に着くなり土下座するアヌスを立ち上がらせても、彼は僕の胸に泣き崩れた。  ──「ボクは死神なんだ、キミは普通の少年なんだ」── 「明日になれば噂はあっという間に広がる。キミが……友樹が、またいじめられて苦しむ姿なんて……ボクは見たくない」 「せっかく笑えるようになったのに、せっかくクラスメイトと普通に話せるようになったのに。ご家族だって……ボクのせいで、ボクがキミと話すせいで、まだ心配が絶えないんだ」  「ボクのせいで、また友樹を孤独に追いやってしまったんだ! ボクのせいでボクせいで」と白髪を振り乱して、自分の事のようにボロボロと大粒の涙をこぼす。  僕はアヌスを強く抱きしめて、親指で涙を拭い、両手で彼の頬を包み込んだ。 「──大丈夫だよ、僕にはアヌスがいる」 「心配性の母さんも、真面目な父さんもいるしね。僕はもう一人ぼっちじゃない、それに気づかせてくれたのはアヌスなんだよ」  自然と笑いかけてしまう僕の両手に包まれて、アヌスは驚いた顔をして「成長したねえ」とまた泣き出した。

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