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序章に過ぎない
南高校、治安の悪さはずば抜けて1位。そして頭の悪さもナンバーワン。
どうしようもない教育機関を少しでもマシにしようと、スマホ持ち込み禁止になっているが、それはSNS普及に伴ったいじめや体罰などの告発も許されないということ。
こんな掃き溜めに来ているのはバカか、どこか頭のネジが抜けているやつだけだ。
俺はバカでもおかしい訳でもないけど、金持ちの両親が海外に行く間、母さんが趣味で買ったマンションに住むハメに。それでマンションから近いのが南高だったというわけ。
遠くの学校へとリムジン通学でも良かったが、朝早く起きるの面倒だし、何より……俺より金持ちやら無駄なテストの点数が高いやつが、でしゃばるのが気に喰わない。
だから俺にたかるバカどもの学校にいてやってるわけだ。
──ああ、丁度おかしなバカがやってきた。
「よう、松茸バナナ。今日もバナナを熟させるために、女子のスカート覗きにきたのか?」
「おはよう、金住豊(かなずみゆたか)くん。何度も言うけど、ぼくの名前は松苗花道(まつなえはなみち)だよ。でもあだ名で呼ぶ程ぼくに親しみを感じてくれてるんだね、嬉しいよ」
「ただ、そのあだ名には知性を感じられないな。みんなが大好きな、人気者の豊くんには勿体ない言動だよ。友人代表のぼくとしてはショックだよ」
長い黒髪で表情を隠しているくせに、こいつは話しかけるたびに自信満々に長々と喋りだす。どうやったら黙るのかチェックするために、試しに殴ってみた。
「ああ、嬉しいなぁ。朝から君の手を味わえるなんて、今日はついてるなぁ。こんなにも晴れて良い天気だし、そうだ今日は一緒に屋上で食べない? ここ最近一緒にお昼過ごせてないでしょう、何してるのかなって気になっ」
下らない奴のくだらない話なんて聞く暇もない俺は早足で教室へ向かった。
戸を開けるとクラスメイト達は俺の元に駆け寄り、我先にと媚びへつらう。コイツらの目的は金だ、最初はチヤホヤされて楽しかったが1ヶ月もすれば飽きてきた。
毎日同じ内容の授業、休憩時間には擦り寄ってくるクラスメイトを避け、隣の教室のあいつにちょっかいをかける。
それに乗っかってくる奴らもいて、わいわいガヤガヤ集団で花道をいじめても、あいつは全く動じない。
2ヶ月もそんな状態が続き、みんなもいじめるのに飽きて、俺もつまらなく感じてきた。
──もう明日はあいつと関わらないでおこう、泣きもしないし毎日ニコニコ鬱陶しいし。
そうして1週間ぐらい放置していたら──。
「豊くんいる? いるよね? 入るね」
つまらない日常にあくびをして今にも寝ようとしていたところ、俺の教室に花道が入ってきた。
俺が声をかけない限り、自分から動くことはないのに。
不思議に思い、花道がどう出るか足を組みながら待っていると、俺の席までやってきた。
「久しぶり、どうしてたの? 最近会ってないから心配してたんだ、だからこっそり覗きにも来てたんだけど。ここ3日間ずっと寝てばかりでしょう、授業に遅れちゃうよ。ほら、ぼくのノート貸してあげる」
「…………?」
「学生の本分は勉強だからねぇ、いつもランク最下位をウロウロしてる豊くんがこれ以上赤点増えたら、留年? 退学? どっちになるんだろうねぇ、どっちにしてもぼくは君が居なくなると寂しいから」
「バカにしてんのか」
くだらないテストの点数なんか俺にはどうでも良いが、まるでお前はバカだとでも言いたげなコイツを懲らしめるため、胸ぐらを掴んだ。
ここ最近静かになった教室は俺たちの騒ぎに怯えだす。
「ど、どうしよう……先生呼んだ方がいいかな……」
校則違反の金髪族達はヒソヒソ話だし、今にも教師を呼ぼうと抜け出そうとしたため、乱暴に花道から手を離した。
「図に乗るなよ、次は容赦しねえからな」
「次……? 次があるってこと? 嬉しいなぁ、また仲良くしてくれるんだね。楽しみに待ってるよ」
周りの生徒からも、俺からも冷たい目を向けられている花道はニコニコと表情を崩さず去って行った。
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