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お前はおかしい
何の刺激もなく今日も1日が終わる帰り道、気晴らしにゲーセンでも行こうと、方向転換した時に手を掴まれた。
──花道だ。
「ねぇ、どこ行くの? 帰り道はこっちでしょう? そっちは真面目な学生が行くところじゃない、豊くんは勉強するって約束したよね?」
「はあ? そんな約束した覚えねえけど」
「だって……今日の昼休み、12時45分15秒ごろ、『次は容赦しねえからな』って、次会うこと約束したよね。その次はいつかないつかなぁ、って楽しみにしてたのに……勝手に帰っちゃうからさ」
「だからついてきたんだよ、気づかなかった?」と両手を後ろで組み、少し背伸びして俺の顔を覗き込む。長い前髪の隙間から一瞬、ギョロリと見開いてる目が見えた。
こいつのことを怖いなんて思った事は一度もない、ないはずなのに……本能が逃げろと叫んでる。
俺はみっともなく走り去った。
母持ちのマンションに帰宅してから、あの目玉を忘れたくてスマホにしがみつく。18歳未満立ち入り禁止のエロサイトで好みの女を探して一息つくと、腹が減ってきた。
そういえば宅配サイトのお気に入り店舗、新メニュー出てたな。仕方ない、俺が美味しく食べてやるかと注文ボタンを押す。
ピンポーンとベルが鳴った、まだ10分も経っていないが。
まあ、常連かつ高評価押してやってるんだから、それぐらい迅速なサービスを受ける価値が俺にはあるからな。
「飯だ〜、飯だ〜」と鼻歌を口ずさみながらドアを開けたら、置き配にしていたはずなのに……人がいた。
「な、何だよ! お前、置き配の文字も読めねえのかよ。てか、飯はどうした!?」
「……ダメじゃないですか、毎日毎日宅配食のしかもファーストフードばかり食べては。こんなに高いマンションに住む財産があるなら、シェフでも雇って栄養管理しないと」
「せっかく綺麗な顔をしているのに、いつかブクブクの醜い姿になりますよ」と偉そうな口答えをする配達員は俺を見上げた。
その配達員は……花道……だった。
「ど、どうしてここに……!?」
「いやぁ、さすが高いマンションなだけあってセキュリティが万全で困ったよ。でも変装したらあっという間に通して貰えたけどね。君がいつも宅配ばかりしてるおかげで」
花道は帽子を脱いで汗だらけの顔を扇ぎ、戸惑って動けない俺を押し込み、家に入って二重ロックの鍵とチェーンを掛けた。
そして変装に使用したんだろう、重たそうなリュックを勝手に投げ捨てた。
「やっと家にあがらせてくれたね。もう数ヶ月も毎日毎日仲良く挨拶し合う仲だったのに、すっかり友達になってたのに。酷いよ」
──「でも、もう、これで……やっと、二人きり……だねぇ?」──
今までのいじめの恨みか、俺に復讐しに来たのか、高校一年生の、たった数ヶ月の事だったのに?
どんなに背が高くて体力もある俺でも、認めたくはないが恐怖を感じた。
いや、待てよ。今までずっとこいつは俺に殴られ続けてる、背も低く線の細い女みてえな体には何の力も無いはずだ。
いくら復讐しようとしたって、そうはさせない!
手を出せば尻尾を巻いて逃げると思った俺は花道に殴りかかったが、瞬時に動きを止められて腹に重い一撃を喰らった。
「うぐぅっ!」と情けない声が出てしゃがみこむ俺に、花道は容赦がない拳で俺の頭を力いっぱい殴った。
頭蓋骨がへこむような衝撃で意識が遠のいていく俺を、奥の部屋へと引きずり込んで行く。
花道は、今まで見たことがない程の笑みを浮かべていた……。
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