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愛のある、愛のない 3
「郁美の方が僕より余程強いよ。こんなことを知っても離れないで、話を聞いてそばにいてくれる」
「悲しいけど、加賀崎家の立場を考えたら無茶苦茶な内容でも納得できました。そんな過去も含めて、僕は貴方が好きです」
「僕も郁美が大好きで、愛している。これからもそばにいてほしい」
「はい。これからもそばにいます。だから僕のそばにいて下さいね」
こうしてまた僕達は愛を確かめ合った。深く身も心も繋がり一つになっていく。
そしてまたぶつかり合うこともあるだろう。悲しいことを聞くこともあるだろう。
ただ一つ変わらない事実は、怜央が大好きで愛しているということ。どんなことがあっても僕は変わらずこの思いを貫き通したい。
「話を聞いてくれてありがとう。そろそろルームサービス頼もうか。流石にお腹減ったよね」
「そういえばルームサービス頼むはずでしたね。お腹すいたので何か食べたいです」
洗面所に座り込んだまま、くすくすと笑い合って、手を取り立ち上がった。
脱衣所から出るとソファで座って、怜央が備え付けの内線電話で注文を終えるのを待っていた。
しばらくして扉がノックされて、ホテルのスタッフがカートを押してやってきた。
「加賀崎様、こちら四宮様からお預かりしております」
スタッフが部屋に入るとメッセージカードを怜央に手渡した。メッセージを確認して、カードを僕にも渡してくれた。
そこには……
加賀崎先生。今夜のパーティーで来賓者が貴方のパートナーに無礼な真似をしたと聞きました。そのような人を招待してしまったこと申し訳なく思っています。
パーティーの後、お会いする約束は気にしないで下さい。俺もパートナーも会えなかったことを残念に思っていますが、また機会を改めましょう。
ささやかですが、俺とパートナーから、二人にお詫びの印を贈らせて頂きました。ではまた。
と綺麗な字で書かれていた。四宮さんの見た目は派手だけど、話してみると優しくて暖かい感じがした。その人のパートナーなら良い人のはず。今度、機会があったら会ってみたいな。
「こちら四宮様からです」
スタッフがボトルラベルを怜央に見せて、栓を抜いた。僕はワイングラスに注がれていく様子をじっと見つめた。
グラスを僕と怜央に手渡される。
「ありがとう。後のことは自分達でするよ」
怜央がスタッフにチップを渡すとそのまま部屋から去っていった。
「四宮さん。いい人ですね」
「うん。だから友人として付き合うことにしたんだよ」
怜央がいい人というのだから間違いない。だから安心してメッセージカードを読み返すことができた。
「そろそろ乾杯しようか。鮮度が逃げないように」
「はい」
「僕達の生活が幸せに満ち溢れたものになることを願って、乾杯!」
二人でグラスを軽くぶつけ乾杯して、ワインを口に含んだ。
僕はアルコールが強くなくて、普段からワインを飲んだことなかった。それでもこれはとても飲みやすいワインだった。
ワインを堪能した後で、ルームサービスの料理を皿に移して、僕たちは漸く食事を始めた。
食べてみるとどれも美味しい料理ばかりで、お互いに笑顔でディナータイムを楽しんだ。
外はすっかり真っ暗で、月が向かいの建物に反射して写っていた。それを見ながら最後のワインを飲んだのだった。
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