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愛のある、愛のない 2
「今は他の誰も抱いていないよ。僕がヒートに耐性がついて、ラットを押さえ込む術を得られるまでの間だけだった。でもやっぱりこんな僕は穢らわしいよね」
「穢らわしくないです。αのラットは強烈で易々と制御できるものじゃない。それを抑え込む訓練の一環で、他の人を抱ただけで気持ちはなかったって今はもう分かってますから。ただ悲しかったです」
「悲しませてごめんなさい。郁美の言う通り発情期のΩの部屋へ放り込まれて、苦しい訓練をたくさん受けさせられた。本能的欲求を抑え込むのは言い表せないくらい辛くて心が張り裂けて、たくさん傷を負ったよ」
本能的にラットになってしまったαは暴力的なまでのセックスをしてしまい、抗うことは出来ない。どれだけメンタルや肉体に自信があっても、本能に逆らうことは困難なんだ。
他の誰にも止められることは出来ず、それによって標的となるΩの負う傷は大きかった。
はるか昔からオメガバースの研究を行い、治療薬の発明を行ってきた加賀崎家が、Ωに危害を加えるようなことはあってはならない。だからコントロールできる術を身につけなければならなかった。
そのことで怜央を責めることはできない。全てはΩを守るためにさせられたことなのだから。
「怜央。ごめんなさい。他の誰かを抱いたって嫉妬してあなたを責めました。僕では想像できないことを一人で乗り越えてきたんですね」
「そのせいで勃たなくなって誰も抱けないαになってしまったんだ。みんな平等に優しくするのは、心をこれ以上傷つけられないように自分を守るため。僕は全然完璧じゃないんだよ」
αには生まれながらにして才がありカリスマ性から、あらゆることを成し遂げることに長けている。それでも人それぞれ個体差があって、みんな同じじゃない。
得手不得手があるのはどの性でも同じことだけど、αの場合はΩのヒートに誘発されて凶暴化するラットを起こす。個体差があっても、それだけは変わらない。
悲しいけれど、獣のように本能のまま子孫を残す生殖行動を起こしてしまうのだ。
それでも加賀崎家は代々ラットを抗うために、ありとあらゆることをしてきたのだろう。そのせいで怜央が後遺症を負っていてもおかしくない。
「でも僕とはセックスできましたね」
「郁美が好きで特別だから自然と勃ったんだ。抱きたいと思えた。君だけなんだ」
縋り付くように抱きしめられて鼓動の速さを聞いて、愛おしさが込み上げてきた。自然と抱きしめ返して怜央の頭を撫でる。
「よく頑張りましたね。怜央はΩの守護者として責務を全うするため、厳しい訓練を乗り越えた。やっぱりあなたは強い人です」
「強くないよ。αになんて生まれたくなかったと恨んだこともあった。訓練を受けないと外にも出られないなんて耐えられなかったから」
「それでもちゃんと制御できるようになったでしょう。そんなあなたを僕は尊敬します。これからは一人で傷つかないで一緒に背負わせてください。怜央を愛していますから」
愛していることを伝えるように何度も僕からキスをした。驚いたような顔でこちらを見てきた怜央はどこか弱々しく見えた。
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