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第1話

 目覚ましが鳴り、あくびをしながら伸びをするとキッチンからいい香りが漂う。 「博信起きたのか?」  落ち着いたテノールが耳をくすぐる。朝食はいつも涼が作ってくれる。 「うん。おはよう……」  台所に立つ涼に後ろから抱きつくと、艶のある黒髪のつむじにキスを落とす。 「こらっ。仕事に遅れるぞ。早く顔洗ってこい」 「は~い」  俺は洗面所に向かい顔を洗うとカッターシャツを羽織りながら椅子に座る。 「今日のハムエッグは半熟だね。美味しいっ」 「そうか美味いか? 良かった」  涼がほころぶように笑うと思わず見惚れてしまう。  平日の朝ごはんだけでも自分が作ると言い出してからずっと作ってもらってる。  コーヒーを入れるのは俺の方が上手いんだけどね。  今日は久しぶりの出勤だ。ほぼリモートワークの仕事だが月に2度ほどは出社しないといけない。堅苦しい服装はキライだが涼は俺のスーツ姿が好きなようで、頬を染めて見上げてくれるからまんざらでもない。  朝食を食べ終わるとわざと涼の前に立つ。俺は成長期にかなり背が伸びた。いつの間にか涼の背丈を通り越し、今では頭一つ分くらい差がある。 「またか、博信。もぉ、ネクタイぐらい自分でしろよ」 「ん~。涼が結ぶほうが上手いじゃん」  俺は涼の頭を撫でながらその腰を引き寄せた。 「こらっ近すぎ。結べないだろ。それに頭を撫でるのをや・め・ろ!」  涼は俺より背が低いことが不満らしい。 「もぉっ。そろそろ兄離れしろよっ」 「イヤだ。しない。俺はずっと涼と一緒だ」 「……ばか」  切れ長の目じりが朱に染まる。照れてるんだな。  俺達は義兄弟だ。俺の母さんが再婚した相手が涼の父親だった。  父親は精悍で仕事人間だが母さんには優しい人みたいだ。俺たちには厳しいけど。まあ母さんが幸せそうだから文句はない。男親なんてどこでもそんな感じなんだろう。  涼は母親似らしい。長いまつげに落ちる影が美しすぎて俺は小さい頃、涼が女神だと思い込んでたぐらいだ。年齢は俺とは二歳離れている。  涼の母親は病弱だったようで、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。きっと綺麗な人だったのだろう。   

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