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完璧な幼馴染と、平凡な俺 2
それに、戸惑った。でも、ほっとした自分もいた。
亜玲は昨日の言葉なんて気にしていないんだ。一時期の感情なんだって、理解してくれているんだ。
そう決めつけて、結局俺は亜玲に謝罪しないままだった。
……だが、あれからというもの、亜玲は何処となくおかしくなった。
多分、それは深くかかわっていない人ならば気が付かないような変化。だけど、俺は気が付いて。けど、気が付かないふりをして。小学生時代を過ごした。
……そして、中学生になって。俺たちの関係は、徐々に歪になっていく。
「ごめんね、私、上月君のことが好きなんだ」
ずっと好きだった女の子。俺が告白して、彼女の返事はこれだった。……ここまでは、まだよかった。
「ごめん、祈。俺、上月のこと好きになったんだ……」
初めてできた恋人は男だった。が、本気で好きだった。なのに、奴は付き合って三ヶ月の日に俺にそう言って別れを告げた。
……ここまでくると、さすがの俺も気が付いた。
――亜玲が、俺の好きな奴、もしくは恋人を奪っているのだと。
どうしてこんなことをするのか。その理由はいまいちよくわからないし、理解も出来ない。だって、この頃の俺と亜玲は疎遠になりつつあった。互いを認識することはあっても、面と向かって話すことはない。
人気者で完璧な亜玲と、平凡な俺。一緒にいられるわけがなかった。
(だけど、さすがに高校生になったら変わるよな。亜玲とは、別の高校に行くだろうし)
人に囲まれて、笑みを浮かべて。楽しそうな亜玲を見ると、劣等感を刺激された。だから、それを誤魔化すように亜玲のことは考えないようにした。高校生になったら変わる。そう、信じていたのに――。
「やぁ、祈」
奴は、俺と同じ高校に入学した。そうなれば、結果はもう散々だ。俺が好きになった奴。俺の恋人になった奴。全員、亜玲に寝取られた。……いや、寝取っているというのは語弊があるのか。ただ、亜玲は俺の好きな奴や恋人に、特別いい顔をしているだけ。
結果的に、みんな亜玲に惚れる。俺のことを捨てる。……本当に散々だ。
「大学こそ、亜玲とは別のところに――」
そのために必死に頑張ったのに。結果は――これである。もはや、悲しみなんてずっと昔に通り越している。
亜玲は顔が良い。亜玲は性格が良い。亜玲は身分が良い。
俺に勝てるところなんて、一つもない。ただ唯一勝てるところといえば――多分、人への愛情なんだと思う。
「本当、どいつもこいつもバカだな……」
亜玲が良い顔をするのは、俺の『特別』な奴に対してだけだ。そう、それすなわち。
――俺の特別じゃなくなったら、亜玲は興味を失うのだ。
でも、口達者な亜玲のことだ。ま、上手くいって別れているのだろう。……そうだ。そうに決まっている。
だって、そうじゃないと今頃亜玲は空の上だ。
「……どうしろってんだよ」
そう思いつつ、俺は缶ビールを開けた。口に運ぶと、なんともいえない味が広がって。……多分これが、失恋の味だ。
なんて、感傷に浸っている場合じゃないな。
「どうにかして、亜玲から離れないとな……」
奴がどうしてこんなことをするのか。それは全くわからない。ま、どうせ俺のほうが幸せになるのが許せないとか、そういうことなのだろう。……いずれは、飽きてくれるといいのだが。
と思って終わらせようとする俺は、随分なお人好しらしい。……知ってたけれどさ。
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