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皇妃達の洗礼②

 栄華宮(えいかぐう)には目を疑う程煌びやかな屋敷が並んでいた。それぞれの屋敷の前には立派な門がそびえ立ち、もはやそこが一つの町のようだ。  この栄華宮は、馬車の中から見ていた町並みとは別世界だった。 「来い。其方を迎えるにあたり、急いで造らせたのだ」  玉風(ユーフォン)が子供のように瞳を輝かせ、仔空(シア)の手を引いた。  栄華宮の一番西側。そこには小川がサラサラと流れており、その屋敷だけは橋を渡らなければ入ることができないようになっている。小川には、高価そうな錦鯉が気持ち良さそうに泳いでいた。 「ここが、私の……」 「そう、ここが仔空の『桜の宮』だ」  目の前には大きな桜の木が満開を迎えており、温かな春風に揺れている。 「凄い、大きな桜の木……綺麗……」 「ふふっ。だろう? よし、仔空よ、ついて来い」  待ちきれないと言った様子の玉風が、仔空の肩に腕を回し紅色の橋へと向かう。その先に橋と同じ紅色の立派な館が見えてきた。  屋敷の入口には桜の花弁がまるで絨毯のように広がり敷き詰められており、敷地は馬に乗って走り回れるくらいの広さがある。桜を見て、玉風がフワリと微笑んだ。 「其方を初めて見た瞬間……まるで桜のように美しい男だと思ったんだ」  少しだけ顔を赤らめながら、玉風が仔空を見下ろす。 「中に入ってみよう」  玉風に促されるまま『桜の宮』に入った仔空は、予想をはるかに上回る豪華さに思わず息を呑む。  入ってすぐに広間があり、漆塗りで精巧な細工が施してある卓と椅子が並べられていた。浅色の紅木(こうぼく)家具や飾り柱があるこの部屋は、まるで朝日が差し込んでいるかのように明るく見える。太い幾本もの飾り柱やたくさんの高価そうな家具には、全て桜の花弁の模様が刻まれていた。  綺麗に障子が貼られた丸い窓枠からはキラキラと春の日差しが差し込み、近くからは小川が流れる水音が聞こえてくる。開け放たれた扉のせいか、部屋の中は桜の香りで充満していた。夜になれば火をともされるであろう行燈にも、桜の花が描かれている。  その奥にはもう一つ部屋がありそうだが、柔らかそうな絹織物が天井から吊り下げられており、その先を見ることができない。その絹織物にも綺麗な桜の花弁が刺繍されており、あまりの美しさに言葉を失う程だった。  最後に仔空の目に入ったのは、黒檀(こくたん)で造られたと思われる立派な鏡台だった。他の家具は紅木で造られているのにその鏡台だけは黒檀でできているため、一際目を引く存在だった。 (これでは、まるで花嫁みたいではないか……)  仔空は恥ずかしくなり思わず俯いた。  この鏡を見ながら爪の先まで磨き上げ、夫がくるのを待っていなさい……そう言われているような気がしてならなかったのだ。

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