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皇帝陛下を待ち侘びて⑦

 玉風(ユーフォン)が帰ってくる当日の朝、仔空(シア)は後宮に嫁いで初めての『挨拶会』に出席することとなった。挨拶会とは、皇妃達が百合の宮に集まり近況報告しながらお茶を飲むというものだ。 「そんなお茶会、気まずいだけだろう」  仔空は朝から憂鬱だった。自分を守ると言ってくれていた玉風も、今はいない。皇妃達が悪事を働くには絶好の時だった。 「女って怖いな」  大きな溜息をつきながら、女官達に付き添われ百合の宮へと向かった。 「きゃはははは!」  百合の宮の大広間からは、(ワン)の高笑いが聞こえてくる。そのキンキンと頭に響く声に、仔空は更に憂鬱な気分になる。 (もうみんな、集まっているのか?)  仔空は大きく深呼吸をしながら扉をコンコンと叩いた。 「大変遅くなり申し訳ありません。私、仔空が皆様にご挨拶に参りました」  静かに扉を開けて深々と拱手礼をすれば、その場から一瞬で笑いが消える。次の瞬間、突き刺さるような冷たい視線が向けられた。 (さっさと挨拶をして帰ろう)  仔空はそう決めていた。 「一番の新人だというのに、最後にいらっしゃるとは……大した肝っ玉の持ち主ですね」 「本当にその通りです。美麗(メイリン)皇后」  まるで美麗のご機嫌をとるかのように、(シャオ)が眉を顰める。 「いくら陛下に少し可愛がられていると言っても、図々しいにも程がありますわ」  (リェン)に至っては、仔空をいたぶるのが楽しくて仕方ないらしい。我慢しても口角が上がってしまうようだ。 「これを陛下が知ったら、どんなにお怒りになることか……」  それを聞いた仔空は小さく溜息をつく。 (よく言う。言われた時間にちゃんと来たのに、もう全員集合しているじゃないか。さては嘘の時間を教えたな……) 「はい。大変申し訳ありません。以後気をつけます」 「以後? まぁ、大切な挨拶会に遅れてくるような者に、以後があるかなどわからないがな」  美麗が意地悪く微笑む。他の妃も、これから始まるであろう諍いに目をキラキラさせた。 「仔空貴人(シアきじん)が遣いに言われた挨拶会の時間は、この時間であっておりますが?」 「なんだと?」 「どちらかの皇妃が、嘘の時間を仔空貴人に教えたのではないでしょうか」  いつの間にか香霧(コウム)が現れ、豪華な茶器を運んでいた。その香霧の言葉を聞いた瞬間、美麗の切れ長の目が更にクッと釣り上がる。怒りから唇が小刻みに震えていた。 「このことは、陛下には内密にしておきますが……今後このようなことがないよう、お願い致します」 「……宦官(かんがん)の分際で生意気な」  美麗が顔を赤らめて怒っても、香霧は気にする様子などない。 「後のお茶会の準備は女官にお任せして、仔空貴人、桜の宮に戻りましょう」  香霧は仔空の肩に手を添えた。

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