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【第六章】結ばれた二人①
「仔空 妃殿下 、おはようございます。体調はどうでしょうか」
朝早くに、香霧 が桜の宮を訪れた。
「え、あっ! ちょ、ちょっと待っていてください!」
まだ玉風 に抱き締められて眠っていたところで、仔空は慌てて起き上がろうとした。しかもいつの間にか玉風の手が仔空の寝巻の中に差し込まれており、前がはだけてしまっている。
「陛下、陛下! 香霧さんがいらっしゃいました! 起きてください!」
がっちり組まれている玉風の腕を退けようとするが、体格差のある仔空は玉風の腕を解くことさえできない。逆に、
「もう少し寝ていろ」
と、さらに強く抱き締められてしまった。
「おやおや、これは仲睦まじいことで……」
「えぇ!?」
ニコニコしながら遠慮する様子もなく閨に入ってきた香霧に、仔空は顔を真っ赤にした。
「仔空妃殿下、お元気そうで何よりです。本当に心配致しました」
「あ、僕は大丈夫です。心配おかけして申し訳ありませんでした」
「いえ、全て私の責任です。こうして生きていられるのも、皇帝陛下と仔空妃殿下のお心遣いのお陰でございます」
「そ、そんな……」
深々と拱手礼をする香霧に、仔空はいたたまれない気持ちになる。
「それに、陛下とお熱い夜を過ごされたようで……私は嬉しいです」
「お熱い夜……?」
「はい。しかしまだ病み上がりですので、お体は大切になさってください。今、侍医 を呼んで参ります。お着替えをしてお待ちください」
「あの、香霧さん! 僕は陛下と熱い夜なんて……」
香霧への必死の訴えも相手にされなかった仔空の横で、笑い声が聞こえてくる。
「ククッ。本当に仔空は面白いなぁ」
「え? 陛下、また狸寝入りですか?」
「ふふっ。いいではないか。そんなに遠くないうちに、其方は俺に抱かれるのだから」
「…………!?」
「其方といると、実に楽しい」
普段、皇帝陛下として険しい顔をしている玉風の無邪気な顔が見られるだけで、仔空の心は甘く締め付けられる。
「陛下、笑い過ぎです」
仔空は玉風の頬を優しく撫でた。
◇◆◇◆
「体の紫斑も消え熱も下がっておりますので、もう毒は抜けたと思われます」
「うむ。ご苦労だったな」
「しかし、雨露期 の気配は全くないようで」
「それはどうでも良い。もう下がれ」
「はい。失礼致します」
侍医が深々と頭を下げ、桜の宮を後にする。
「よかった、仔空妃殿下がご無事で……」
緊張の糸が切れた香霧が、倒れ込むように床に崩れ落ちた。仔空は駆け寄ろうとしたが、玉風に止められる。
「其方はまだ寝ておれ」
「でも……」
「大丈夫だ。香霧はそんなに弱い男ではない。それにこうなったのは、こいつの責任でもあるのだ」
香霧を見つめる玉風からは、失望の色が窺えた。それ程に香霧を信頼していたのだろう。
「ただ、いくら仔空妃の為であっても、お前を殺めるのはさすがに抵抗がある。今後は仔空妃に何もないよう、くれぐれも気をつけるように」
「……はい、かしこまりました。陛下」
「頼むぞ、香霧。もう失敗は許されないぞ」
香霧に向かい厳しい言葉をかけた玉風が仔空のほうに体を向ける。先程まであんなに厳しい表情をしていたのに、仔空に対する態度はとても穏やかだ。
「其方はもう少し寝ておれ。また様子を見に来る」
玉風が微笑みながら、仔空の頭を優しく撫でてくれる。
「行くぞ、香霧」
玉風は香霧の肩を叩き、颯爽と桜の宮を後にした。
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