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結ばれた二人②
月光が閨を青白く染め上げた頃、仔空 はそっと布団から抜け出す。夜になると、急に風が冷たい。庭園には満開の桜が月に照らされ、キラキラと輝いて見える。結ばれていない仔空の長い髪を、サラサラと風が撫でていく。火照った頬に冷たい夜風が気持ちよかった。
「綺麗だなぁ」
桜を眺めながら、仔空はポツリと呟く。
ただ美しい桜もいつかは散っていくのを思えば、虚しさを感じずにはいられなかった。
「其方のほうが余程綺麗だ」
「え?」
仔空が振り返った瞬間、フワリと温かな物に包まれた。
「こんな所にいたら風邪をひくだろう」
「陛下……」
玉風 は少しだけ怒ったような顔をしながら、自分が羽織っている上着の中に仔空を抱き入れてくれる。自然と2人は抱き合う形となった。
「陛下は温かいです」
「まだ体調が万全ではないのだから、ゆっくり寝ていてもらわなければ困る」
「ふふっ。ごめんなさい、陛下」
仔空がクスクスと笑いながら玉風を見上げれば、玉風が眉間に皺を寄せた。
「なぜ笑っているのだ? 俺は心配しているのに」
「申し訳ありません。ただ……」
「ただ?」
「陛下の優しさが、擽ったく感じられたのです」
仔空が照れくさそうにはにかめば、玉風の頬が少しだけ赤く色付く。
「其方は、なんでそんなに愛おしいのだろうか」
その言葉が合図だったかのように、仔空はそっと目を閉じる。
「好きだ。仔空」
お互いの唇が一瞬重なる。温もりがすぐに離れて行ってしまったことに寂しさを感じて、仔空は背伸びをして玉風の唇を追いかけた。
「陛下……もっと口付けをください」
「可愛いな、仔空」
「ん、んん……はぁ……」
再び重ね合う唇に、仔空の背中をゾクゾクッと甘い雷が走り抜ける。仔空にしてみたら口付けは性交のときにするものであって、愛情を確かめ合う為のものではなかった。玉風の優しい口付けに、仔空は呆気なく虜になってしまったのだ。
「仔空」
玉風がもう一度仔空を抱き締めながら、耳元でそっと囁いた。
「今日、正式に『妃 』の称号を其方に与えることを発表した」
「妃……ですか?」
「そうだ。皇帝陛下の妃ともなれば、簡単に手出しはできないだろうからな」
玉風は愛おしそうな手付きで、優しく仔空の髪を梳いてくれた。
「俺がどれ程、其方を思っているか、伝わったか?」
「はい。陛下……」
仔空の脳裏に、寂しかった過去が蘇ってくる。花屋に売られてからは地獄のような毎日だった。そんな自分が、こんなにも美しい皇帝陛下に寵愛してもらえるなんて……。
「ありがとうございます。陛下」
仔空の声が、溢れ出しそうな涙と共に小さく揺れた。
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