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冷宮⑨
自分は一体どうしたらいいのだろうか。
川に、この身を投げてしまおうか。
「陛下、ごめんなさい」
自分の首筋を押さえながら仔空 は泣いた。
「これで貴方は終わりだ。さぁ、陛下が戻られる前に王宮から出ていくがいい。後は私が上手くやっておくから」
「うぁぁッ、くぅ……! 陛下、陛下……!」
もう二度と会うことのない男を思い、涙を流した。
「まだ足りないだろう。ちゃんと抱いてやろうか?」
「やめて!!」
仔空を味わうかのように、香霧 がベロッと傷を舐める。
発情は収まるどころか増々激しくなり、体が爆発しそうだ。全身の血液が物凄い勢いで駆け巡り、正常な思考回路を奪っていく。
「もしこのまま、子まで孕んでしまったら……」
それだけは……。
仔空はチラッと香霧の腰に下げられている短剣に視線を移す。太監である香霧が護身用に持ち歩いているものだ。
(あれを奪うことができたら……)
そう思ってもなかなか香霧が隙を見せることがなく、短剣に腕を伸ばす機会さえなかった。強引に奪おうとすれば、逆にその短剣で刺されるのではないか……という恐怖さえ感じる。
それでも今、自分を守る方法はこれしかない。
仔空は奥歯を噛み締め香霧の短剣に向かって手を伸ばすが、
「何をする!?」
そう叫んだ香霧に簡単に動きを封じられてしまう。痛いくらいに手首を押さえつけられ思わず顔を歪めた。
「嫌だ、嫌だ、離せぇ!!」
「グフッ!!」
仔空が腹を思いきり蹴飛ばせば、短い悲鳴をあげながら香霧の体が自分から離れていく。そのはずみで短剣が床に投げ出された。腹を押さえ蹲る香霧に気付かれないよう、必死に手を伸ばすが「もう少しで手が届く」というところで気付かれてしまい、勢いよく短剣を弾かれてしまった。
「いい加減に大人しくしろ!」
「クッ……!」
これまでか……そう感じたとき床に壺が転がっているのが目に留まる。手を伸ばせば何とか手が届きそうだ。
「香霧さん、ごめんなさい!」
仔空は壺を手に取ると、香霧の頭めがけて振り下ろした。
ガシャン! と陶器が砕け散る音と共に、人の頭を殴った感触が手に伝わってきて鳥肌が立つ。
「グハッ!!」
香霧の力が緩んだ隙に、這って出口へと向かう。
(誰かに助けを求めなくちゃ……)
だが仔空は背後から抱きつかれ、呆気なく再び捕えられてしまった。骨が砕けてしまうのではないかというくらい強い力に体中が悲鳴を上げる。
「許さない。許さない!!」
「離せぇ!!」
香霧の腕に無我夢中でガブリと噛み付けば、「グォッ!」という呻き声が聞こえ、体が解放される。
今だ……! 仔空は窓から外に出て、一目散に走り出した。
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