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オメガになりたい10
「誘発剤はあと三錠残ってる。試してみる?」
「うん」
樹くんが一切性差別をしないことはわかった。確かにそうなのかもしれない。でも、やっぱりベータは出来損ない、というのが頭から離れない。
それに樹くんは、将来のKコーポレーションを担っていく人だ。そんな人とベータの僕がずっと一緒にいられるはずがない。いつか別れなくてはいけない日がくるだろう。でも、もし僕がオメガだったら。絶対はないけれど、ベータよりもそばにいられる可能性が高い。だったら、オメガになりたい。
「ちょうど週末だから、今夜試してみようか」
「うん」
誘発剤を飲んでセックスするのは二回試した。二回目は二ヶ月くらい前だ。一度目は三ヶ月待ってから次を試した。今回はまだ三ヶ月経っていないけれど、多分、ヒートはこないと思う。それなら、今日。こんなことがあったから試さずにはいられない。
「あぁぁぁぁぁぁ」
キスでトロトロになった後に樹くんが入ってきた。
樹くんが腰を動かす度にぬちゅぬちゅと水音がして、音によって耳を犯されてるみたいだ。
「はぁ、んン」
「気持ち良さそうな顔してる」
樹くんの言葉に羞恥心が煽られる。そんな顔をしているのだろうか。でも、気持ちいいのは確かだ。
「噛むよ」
樹くんは噛むときに必ず声をかけてくれる。
そして、声の少しあとに犬歯でがぶりと噛まれる。もし僕がΩなら、そこを噛まれたら番になれる。いつかオメガになって樹くんに噛まれたいと思う。
「あぁッ……イ、きそ……」
「俺もイキそうだから、一緒にイこう」
そう言って樹くんは僕の中に精を放ち、僕もイき、グッタリとなると、樹くんも僕の隣にドサッと寝転がり、僕の髪を梳く。樹くんはよくそうする。一度、なんで? と聞いたら、触り心地がいいんだ、と言っていた。
「これでヒートがくればいいな」
「うん。きて欲しい」
「でも忘れるな。優斗の性別がなんであれ、俺は別れないよ。そして社会人になろうが、社長になろうが絶対に別れない」
樹くんはいつもそう言う。決して樹くんの言葉を疑っている訳じゃない。でも、抗えないことだってあると僕は思ってる。
もしかしたら、僕がオメガになっても、家柄の問題で一緒にはいられないことがあるかもしれない。それは周りの大人たち次第だからわからない。
でも、ベータでいるよりも一緒にいられる確率が高いのならそれを試すだけのことだ。
そしてオメガになりたい理由のひとつに、もう出来損ないと言われたくない、というのがある。その言葉の刃は、僕だけにではなく樹くんに対しても切りかかるというのがわかったから。僕のせいで樹くんが侮辱されるのは嫌だ。
樹くんは優しいから、僕に辛い顔は見せないだろう。でも、わかってしまうから。好きな人を守るためにも、僕はオメガにならなくちゃいけない。
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